SNSが「孤独」を量産している

 続いて、民主主義とテクノロジーの関係についてお聞きしたいのですが、あなたは昨年(2024年)、「TikTokを買収するつもりだ」とメディアでおっしゃっていました。私の大学の学生たちを含めて、TikTokは日本の若い人たちに大人気で、影響力も絶大なんです。

アメリカではTikTok禁止法案など、その存在を危険視する動きもありますが、Plurality(プルラリティ)、すなわち文化の「多元性」を提唱しているあなたたちが、もしTikTokを買収したらと思うとワクワクします。たとえばTikTokであったり、既存のSNSというものを所有することで、どういったプラットフォームにしていきたいとお考えでしょうか?

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ワイル はじめに、その取引の現状と、私がそれとどう関係しているかを明確にしておきます。 “Project Liberty”というプロジェクトがあり、私はこのプロジェクトと何度かやり取りを行ってきました。このプロジェクトは私の仕事から一部着想を得たもので、その中でオードリーは非常に影響力のある人物です。

このプロジェクトはTikTokの買収提案を行っています。しかし、私はこの買収提案に対して金銭的な関係はなく、正式な立場も持っていません。実際、私はマイクロソフトで役職に就いており、マイクロソフトも買収提案を検討しているとの報道もありますが、こういった買収案件というのは非常に政治的な事項なので、気をつける必要があります。

この件については、他にもいくつかの提案があり、私は特定の提案と強く結びついているわけではありません。しかし、私たちはSNSの未来について、非常に優れたアイデアを持っていると信じており、BlueSkyやSkylight(TikTokの競合スタートアップでオープンソース・プロトコルを採用している企業)など、他のプラットフォームと協力してそのアイデアの実験を進めています。共有できるアイデアはいくつかありますが、現状を過大評価したくはありません。

さらに、何が起こるかについては巨大な不確実性が存在します。これは非常に政治的な問題であり、私の権限を超える様々な要因に依存しています。その状況を正確に理解しているかのように装うつもりはありません。

しかし、現在取り組んでいる私たちのアイデアについて、多くのプラットフォームと協議していく予定です。SmartNewsも参加しており、彼らがこのアイデアを採用してくれるのなら非常にうれしく思います。そのアイデアとは、アルゴリズムがユーザーの興味を推測し、その興味に基づいてコンテンツを配信する際に、そのコンテンツにソーシャルグループをラベル付けするということです。

アルゴリズムは、あなたの興味やソーシャルネットワークのつながりに基づいて、あなたを特定のグループに分類し、その分類に基づいてコンテンツを配信しています。

しかし、その仕組みはあなたには透明ではありません。時には、あなたが属する非常に狭いコミュニティで非常に人気のあるコンテンツを見かけることがあります。

しかし、あなたはそれが世界中で流行っていると思っているかもしれません。

または、あなたが受け取るコンテンツが、単に自分の趣味や好みによるものだと考えがちですが、実は誰もがそのコンテンツを見ている可能性があります。

このアルゴリズムの働きによって、人々が「自分が興味を持っている狭い分野が、他の人々も皆同じように考えている」と誤って信じ込むため、分極化と孤立感を生み出すと考えられます。

その結果、その分野に興味を示さない人に対して怒りを抱くようになります。 

または、他人が同じものを見ているかどうかを知らないため、孤独を感じます。

そして、他人とつながる代わりに、ただスマホに没頭するようになってしまいます。

そのため、SNSよりも、オンラインではない実際のコンサートであるとか、一緒に見ることのできるテレビのようなもの、実生活で共有されている従来の文化の方が、よほど人とつながる実感が持てるというような現象があります。

それが今、SNSの大きな問題であると思うのです。

フェイクニュースの問題やその他の要因を置いておくとしても、物事を体験する相手や共有する文化の感覚が失われていることは、社会にとって大きな問題だと考えています。

E・グレン・ワイル氏(左)と李舜志氏(右)
E・グレン・ワイル氏(左)と李舜志氏(右)

ですから、もしもSNSのプラットフォームを構築するなら、コンテンツは、そのコンテンツを同時に閲覧しているすべてのグループでタグ付けされるべきだと考えます。それは、あなたが所属する宗教グループ、国籍グループ、地域コミュニティ、暗号資産に興味のある人など、何であれ、あなたが何かを共有している他の人が誰なのかを把握し、コミュニティの一員としての感覚を持つためです。

また、そのコミュニティの境界線も理解できるようにすることで、例えば、「アメリカ合衆国で一部の極右コンテンツが広く受け入れられている」と誤解するのを防ぐことができます。