「お茶屋の藤田くんの巻」(ジャンプ・コミックス第106巻収録)
今回は、両さんと映画談義やAV談義を繰り広げる男、藤田尾出男(ふじた・びでお)が登場するお話をお届けする。
藤田は亀有の商店街で「藤田園」という茶舗を営んでいる。エロビデオという言葉自体がすでに死語かもしれないが、藤田はとにかく「おげれつ」ビデオが大好きで、両さんとはいうなれば同好の士。
ビデオ以外にも賭けごとやゲームなどにうつつを抜かしている、ちょっとダメな、だけどどこか憎めないオッサンだ。
ところで、藤田と両さんがビデオ鑑賞に使っていた再生機器は、VHSビデオ。本作が描かれたのは1997年。DVDが登場したばかりで、映像の録音や再生は主にテープメディアを使うビデオテープレコーダーに頼っていた時代だ。
なお、DVDは映像ソフトのフォーマットとして発売され、専用の再生機が必要だった。このフォーマットの普及には、2000年に発売されたゲーム機PlayStation 2のヒットがひと役買っている。DVDプレーヤーが何万円もしていた時代に、PS2のDVD再生機能は非常に重宝された。
ちなみに、藤田と両さんが愛用するVHSビデオテープレコーダーは、現代ではすっかりロストテクノロジーと化しており、ハードやメディアともに見たことがないという方も多いだろう。簡単に紹介しておこう。
VHSとはVideo Home Systemの略で、1976年に登場した家庭用映像録画再生機の規格のひとつだ。2時間録画できる弁当箱サイズのカートリッジ式テープに映像と音声を記録し、それを入れ替えて使用する。
ネット配信やサブスクどころか、BS放送もない時代には、テレビで放送された番組やビデオカメラで撮影した動画を録画・再生するには、ビデオデッキとビデオテープが不可欠だった。また、市販の映像作品を観るには、1万円以上するソフトを買うか、レンタルビデオ店で数百円を支払って借りる必要があった。
なお、両さんと藤田が会話中で交わしている「ダビング」という言葉だが、これは2台のテープデッキを接続し、1台で再生、もう1台でその映像を録画することを指す。当時の映像や音声の信号はアナログだったため、コピーをすると必ず信号が劣化してしまっていた。好事家の間でひそかに出回っているエッチなビデオなどは、何度もダビングを経ているため、映像が非常に汚く、見にくくなってしまっていた。
そんな後ろめたさを感じさせるところが、好事家にはますますたまらないのだろう(?)。
それでは次のページから、両さんのおげれつ仲間、藤田と一緒に20世紀末のビデオ事情をお楽しみください!!