『FNS歌謡祭』のコラボレーションを成功に導く方法

音楽監督を務める『FNS歌謡祭』で、長年にわたり目玉となってきたのが、他の音楽番組では観ることのできない豪華ミュージシャンのコラボレーションです。

そのようなコラボレーションを行う場合、音楽監督は具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。

『FNS歌謡祭』では、まずプロデューサーや演出家から、この2組のコラボレーションを行いたいというプランをもらいます。場合によっては、その2組でコラボが成立するかを聞かれ、こちらから別のミュージシャンの名前を提案することもあります。

ただ、最終的に尊重されるべきものは番組側の意向です。だから番組側がなにをしたいのかをディスカッションします。

音楽番組の音楽監督を多く務めてきた武部聡志氏
音楽番組の音楽監督を多く務めてきた武部聡志氏
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コラボレーションの組み合わせが決まると、次に考えるのが2組の歌唱の折り合いについてです。コラボ曲の歌詞カードを前にして、歌いだしはだれか、どこまで歌い、どこで相手にバトンを渡すのか、2組でハモるのはどこか、といったことを打ち合わせます。

サビが何度かあるとして、2組のハーモニーをピークに持ってくるために、1番のサビは歌い分けるとか、2番のサビはユニゾンでとか、変化をつけることも大事です。ハーモニーのラインについても、2番のサビは下ハモにするけど、3番のサビは上ハモにしようとか、単調にならない構成を意識します。

それは3分間ないし4分間のパフォーマンスを、視聴者に飽きずに鑑賞してもらうためです。しかもそこには映像的な観点も関わってきます。楽曲をレコーディングするのとは大違いです。

そういったことを歌詞カード上で考えたうえで、音を実際に聴きながら検証する作業に移ります。その段階で、想定したハーモニーが音域的に難しいとわかることもあります。異性のコラボレーションになると、その点はシビアです。女性がオクターブ上を歌っても、ハーモニーとして成立しなかったり、男性のキーで歌うと低すぎたり、さまざまな問題が出てきます。

そこで両者にストレスを感じさせず、双方の魅力をうまく引きだしながら、歌い分けやハーモニーのラインを考える。テレビの音楽番組で音楽監督を務めるとき、もっとも難しいのはこの段階です。

ここまで長くいろいろな仕事をしてくると、だいたいのボーカルの音域や持ち味を把握しているので、キー設定はミュージシャン側から委ねてもらいます。ハーモニーに関しては、普段メインで歌っているボーカリストは、ハモりが苦手な人も多いです。そういう人たちのために、ハーモニーのラインがそれだけでメロディーとして成立するような、覚えやすいラインを工夫して考え、事前に覚えてきてもらうようにします。