生存のための重要な機能

これは生存のためです。人類が集団で暮らし始めた時代から、他者との関係は生存に大きな影響を与えてきました。

限られた資源を分け合い、協力して生活していく中で、誰が信頼できる相手で、誰が警戒すべき相手なのかを判断し、それを記憶することは極めて重要でした。

この記憶システムの中心となっているのが扁桃体です。扁桃体は「この状況は要注意だ」と判断すると、その出来事を強く記憶に刻み込もうとします。これは、一度でも危険な目に遭った場所や相手のことを忘れないようにする、生存のための重要な機能なのです。

山田さんの場合、課長からの穏やかな指摘であっても、「上司からの評価」という山田さんにとって重要なシーンとして扁桃体が認識し、その記憶を強く保持しようとしているのです。

そのため、周囲から見れば些細な場面であったにもかかわらず、彼女にとってはそのときの状況が鮮明に思い出されることになります。

脳は「覚える」より「忘れる」ほうが苦手…職場での嫌な出来事を忘れられない体験として脳が記憶してしまうメカニズム_2

私たちの脳は、特に「職場」での出来事を強く記憶に留める傾向があります。これは、会社という場所が私たちの生存、つまり生活の基盤に直結しているからです。上司や同僚との関係は、私たちの評価や仕事の継続、さらにはキャリアの形成にまで大きな影響を与えます。

そのため扁桃体は、職場での些細なやり取りであっても、「生存に関わる重要な情報」として認識しやすいのです。

山田さんが課長の言葉を気にしてしまうのも、決して特別なことではありません。むしろ、脳が正常に働いている証拠です。