記憶の影響力を弱めればいい

特に夜、一人で過ごすと、日中の出来事がふと鮮明に思い出されることがあります。これは、脳が休む時間を利用してその日にあったことを整理し、必要な情報を記憶としてしっかり残そうとするからです。

夜になると、脳の記憶に関わる部分(海馬と大脳皮質)が協力して、その日体験した出来事を整理します。特に、感情を伴う大切な出来事は、脳が「これは重要だ」と判断し、より強く記憶に残るようにしているのです。

さらに睡眠中、脳は日中に体験した出来事を整理し、特に感情を伴う記憶を長く残る記憶としてしっかりと定着させていきます。「長期記憶」と呼ばれるものです。

眠っている間、脳は大事な情報を何度も思い返すように働いて、記憶を強化しているのです。

夜になると不安が増すのは脳の正常な働きによるものだが…人類が生存するために発達した記憶システムが現代ではストレスとなっている皮肉_1
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2023年10月、自然科学研究機構・生理学研究所の揚妻正和准教授らの研究グループは、このような「記憶の定着メカニズム」について重要な発見をしました。

マウスを対象とした実験で、ストレスを感じる出来事を経験すると、脳内で記憶を処理する神経細胞のネットワークが形成されることを明らかにしたのです。

特に興味深いのは、このネットワークには「ハブ」となる中心的な記憶が存在するという点です。

ハブとは、空港で言えば国際空港のように、そこを中心に多くの路線がつながっている場所のことです。

記憶の場合、最も強く印象に残った出来事がハブとなり、そこから様々な関連する記憶が枝分かれしていくのです。