“隠れ”首位打者を支える5つのスキル
「初回は外から入ってくるスライダーと、外寄りの真っすぐを振っていくと決めていました。外から入ってくるスライダーでも、低めは振らないように。インコースを狙っていると(ゴロを)引っ掛けちゃうスイングになるけど、外寄りを狙っていたからこそバットも内から出て、センターに行きました。狙いとスイングの軌道を一緒にできましたね」
6回に放った試合を決める右中間へのタイムリー二塁打は、打ち取られた2、3打席を踏まえた一打だった。
「インコースを少し攻められている部分があったので、真っすぐ狙いで行きました。打ち取られたボールに対して(相手は)しつこくというか、攻めてくる傾向があるので。1回打ち取られたボールは次でしっかり仕留める。2回目はやられないというのは、ちゃんと意識しているところです」
まるでプロとして10年以上活躍してきたベテランのような言葉だ。相手に対して明確な狙いを持って臨めるのは、試合前の周到な準備も大きい。動画やデータで相手投手の傾向や強みを分析し、狙いを定めてファーストストライクから仕掛け、その中で生まれたズレを踏まえて修正。打席を重ねるごとに、反省を生かしていく。
大学時代から相手の分析は行っていたが、プロでは情報量が圧倒的に増えた分、「割り切りやすい」と感じている。
「ピッチャーが自信を持っている球を打席の中で絶対に投げてくるので、それに対して見逃すのか、それとも打つのかを決めるだけです」
プロに入ったばかりの渡部が、“隠れ首位打者”の活躍をできるのはこうしたいくつかの理由があるからだ。改めて振り返ると、(1)オンプレーン率(2)体の強さ(3)投球軌道とストライクゾーンの空間認識力(4)分析力(5)狙い球の割り切り、となる。
「でも、まだ4月です。大学出身のルーキーは、春季リーグの時期が終わってからも活躍できるかで判断しています」
パ・リーグ某球団の幹部は冷静に話した。実際、渡部はまだ16試合に出場したに過ぎない。連戦で体力が削られ、相手からの研究が進むのはこれからだ。
4月29日の楽天戦後、西武の仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチはこう話した。
「考え方もしっかりしているし、それを躊躇なく実行できる。滑り出しとしてはなかなかできない活躍ですよね。でも、山も谷もこれからいくらでもやって来る。どんなにいい結果が出ていたって、僕らも気を抜けません」
攻撃力が課題の西武で開幕から5番を任され、より多く打席の回ってくる3番に昇格。46年ぶりの開幕4連敗から貯金1まで巻き返したなかでの、打の立役者は間違いなく渡部だ。
果たして、開幕直後の打棒をどこまで発揮し続けられるか。まだ4月が終わった段階にすぎないが、さまざまに非凡さを見せているルーキーだけに、長いシーズンを通じてのパフォーマンスに期待したい。
取材・文/中島大輔