「客に殴られた」「土下座をさせられた」
では、どういった業種がカスハラを受けやすいのだろうか。辻󠄀本弁護士によれば「“言葉の暴力”の対象になりやすい業種で、1番に思いつくのは飲食や小売といった“お店”ですね」という。
そこで、こうした業種を中心に、カスハラ経験の有無や条例への所感などを聞いてみたところ、40代のスーパー店員はこう話した。
「コロナの頃、『トイレットペーパーがなくなる』というデマを真に受けて来店したおじいさんたちが、半ギレ・喧嘩腰で接してくるケースに何度も遭遇しました。ワイドショーでもネットニュースでも、『デマなので落ち着いてください』とメーカーのコメントと併せて繰り返し報じていたのに、殺伐とした態度で当たり散らすんです」(40代男性・スーパー店員)
飲食店ではどうだろうか。
「ちょっと焦げてるとか提供が遅いとか、そういうので“代金をまけろ”っていうのはたまにありますね。そういうのは形だけ謝って、後は相手にせず受け流すことが多いです。そういう人はもう来てもらわなくていいとも上から言われてるので」(30代女性・飲食店店員)
「やっぱり居酒屋でお客さんはみんな酔っ払うため、揉めごとはしょっちゅうです。多いのは『払った・払わない』の話ですね。3人組のお客さんで先に2人が帰り、残った人が『アイツらがもう払ってるはずだ』とお金を払わず、店を出ようとするとか……。
ただ、こういうのってだいたい話は平行線でラチが明かないので、ウチの場合はすぐ警察を呼んじゃいます。年に5~6件はありますかね。酔って大声で歌うお客さんに注意したら、手をあげられて警察を呼んだこともありました」(40代男性・居酒屋店主)
やはり、酒が入るという特性上、居酒屋は客とのトラブルが起きやすいようだ。店主はさらに、条例のガイドラインに示された土下座の強要も経験があるという。
「ウチはお客さん用の傘置き場があって、帰るときに自分の傘を選んでもらうんですが、その人は『なんで預けたのに渡しに来ないんだ!』と言い出して。『ですから、そこにありますよ』と言っても全然聞かず『土下座しろ!』とやらされて、連れの客は土下座姿を撮影しようとしてました。
やっぱり、こういう商売だと強くは出づらいんですよ。お客さんも、ふり上げた拳の落とし所を探してる部分もあると思うから、それで引っ込むなら多少は聞いちゃおうっていうのはありますね」(前出・店主)