「不動産」の現状を伝える困難 

こうした状況にもかかわらず、不動産投資への熱は冷めることがない。

「新築の段階で明らかに収益を出せるスキームになっていないものや、中には固定資産税を払うと赤字になる『マイナス投資物件』なんてものも売っています。それでも、そうした投資物件を買う人がいることも事実です」

こうした「放棄不動産」が増えないために対策を練ることはできないのか。

「大前提として、こうした不動産の解体は行政に頼るべきではないと思います。行政代執行は税金がかかるため地元住民の同意を得にくいでしょうし、そもそもお金を払って解体をしている人がバカを見るようなことをすべきではありません。

その上でできそうな対策といえば、これから新築を建てる際に解体費用をあらかじめ積み立てておくようなスキームを作ることも必要だと思います。今後作られる建物でしかできませんが、『売れさえすればいい』という認識を持つ売り手の認識を変える必要があります」

エクストラクラブ岩原では管理者の姿もなく放置されている
エクストラクラブ岩原では管理者の姿もなく放置されている

同時に、「放棄不動産」の現状を正しく伝えることも重要だと思われるが、それについてはどのように考えているのか。

「そもそも、不動産を専門に扱う識者やライターが少ないと思います。不動産と一口に言っても範囲は幅広いのですが、現在メディアでは、複数の不動産領域について少数の人がコメントをしている状態です。

取材する側も、同じ識者にコメントを頼みがちで、そのコメントが正しいかどうかまでのチェックができません。その結果、誤情報が拡散されやすい構造にあります」

 「いま、日本で起こっていることを記録したかった」 

同時に吉川さんは、「不動産」というジャンル特有の問題についても指摘する。

「そもそも関連法規や関係者の多さも含め、「不動産」というジャンルが、速報性の求められるメディアとかなり相性が悪いんです。今回の本も、僕はほとんど赤字覚悟で書いています。

何人にもわたる区分所有者を調べたり、登記簿を全て取得したりと正直かなりの手間がかかっていますが、明らかに印税でペイできないと思っています」

それでも、今回のテーマを吉川さんが1冊の本にまとめたのはなぜか。

「この問題を調べる人は、なかなかいないと思うんです。しかし、この現状もまた、確かに日本の不動産で起こっていることです。それを記録したい、という気持ちが強かった。だから、もはや収益ではなく、調べられる限りのことを調べて本に詰めようと思いました」

吉川さんは最後に、こう述べた。

「もしこの本が売れなくてもいいんです。でも、一つの時代の記録として残って欲しい。一冊でも図書館に入ってほしいし、メルカリだろうが古本だろうがなんでもいいので、とにかく読んでほしいと思っています」

取材・文/谷頭和希

〈プロフィール〉
吉川祐介(よしかわ ゆうすけ)

1981年、静岡市生まれ。ライター。千葉県横芝光町在住。2017年にブログ「URBANSPRAWL 限界ニュータウン探訪記」を開設。高度経済成長期からバブル期にかけて乱開発された千葉県北東部の限界分譲地をたずね歩き、調査を重ねてきた。さらに別荘地やリゾート地などへと調査対象を広げている。現在、不動産投資の専門サイト「楽待」にて定期的に記事を執筆。明治学院大学やNHK文化センターでも講義を行っている。著書に『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』(太郎次郎エディタス)。

バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮 (角川新書)
吉川 祐介
バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮 (角川新書)
2025/3/10
1100 円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4040824994
バブル期に大量に建設されたリゾートマンション、会員制リゾート―― ・アクセス難で苗場のマンションが10万円 ・40平米の1Rマンションを見ず知らずの20人で所有 ・リゾートホテルの建物が1250分割、ワンフロアが200分割――権利が切り刻まれて身動きが取れない不動産 ・東京都湯沢町、バブル期にマンションを建てまくったデベロッパーも多くが倒産、解散 ・もはや地面の切れ端…14平米に満たない狭小地で分割され販売された別荘タウン ・権利分割して建てられていたホテルが今や有名な廃墟スポットに ・解体費用は、地方自治体…? 地元の巨大なリスクに あまりに度を越した濫用が横行したために、今となってはその乱売された「権利」が、購入者にとってなんらの価値も生み出さないどころか、ただ義務と責任ばかり発生するだけのお荷物と化している。電気、水道といった施設の利用に必要なインフラはすべて止められ、一切の修繕が行われない建物は老朽化するばかりだ。当の所有者本人ですら利用が不可能な状況に陥っているのに、他者の権利に阻まれ、解体もできなければ売却もかなわない。なんの解決策も取られないまま、ただ毎年固定資産税が課税され続けている。こんな理不尽な話があるだろうか。(本文より) 1970年代、都心の土地価格の高騰に伴い、ターゲットにされた新潟県湯沢町。バブル期のスキーブームもあり、多くのリゾートマンションや会員制ホテルが建設された。今なおきちんと管理され、人々の生活を潤すマンションがある一方で、大幅に価格が低下したり、法律の濫用により身動きが取れなくなった施設が存在している。千葉県北東部の「限界ニュータウン」に住み、不動産問題を調査報道する著者が、リゾート物件の現状を伝える。
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