今が税制改革の「ベストタイミング」

賛否両論の中、この見直しは一体どれほど影響があるのか。そして今回、退職金が増税の対象となった背景について、近畿大学経済学部の丸之内陽一教授(租税法専攻)に話を聞いた。

「日本人は他の先進国に比べると勤続年数は長いほうですが、転職者数は年々増加傾向で、すでに転職を念頭に就職活動している学生も多くいます。税制調査会でも幾度となく見直しを提言されており、仕組みが終身雇用中心の平成元年から続いていることを鑑みても、どこかのタイミングで見直すべきだった課題です」(丸之内教授、以下同)

氷河期世代からは不満の声があがっているが、改正によるメリットはあるのか。

「例えば同じ会社に40年働いていた人と、20年ずつ別の会社で働いていた人の退職金を比較した場合、現行制度では課税の重さが異なり、転職者が損になってしまいます。それを現代の働き方に合わせ中立にすることができます。

また改正することで、企業の退職に関する制度に柔軟性が増す可能性が高いです。今、賃金が上がらないことが問題視されていますが、これに対し、退職金を前倒しして実質賃金を上げるという対応もやりやすくなるでしょう」

長年棚上げしていた「退職金課税制度」の課題を、この時期に取り組むことで、今必要とされている課題に貢献できるというわけだ。

その一方で改正したことによるデメリットとは?

「退職金は一人一人の将来設計や会社の退職金制度全般に関わることなので、急に変えると、せっかく築いてきた人生設計が壊れかねない上に混乱を招きます。石破首相も言っていた通り、大きな制度改革は10~15年という長いスパンを設けることが大事です」

今国会は5年に1度の「財政検証」(公的年金の財政状況のチェック)が行われた時期であり、丸之内教授は「このタイミングで税制改革を一緒に行うことはベストだ」と評価する。

「年金と社会保障と退職金などの税制は非常に密接に関連しています。基礎年金を底上げしようと政府が考えているタイミングで、年金改革と非課税のことを一緒に考えていくことが重要です」

増税の対象となった退職金(写真/Shutterstock)
増税の対象となった退職金(写真/Shutterstock)