保険の対象から外せば無価値医療は減る
私たちの研究チームは、筑波大学の宮脇敦士先生を中心に、DSTの支援のもと、より包括的な無価値医療のリストの作成を現在しております。このリストは近いうちに完成予定ですので、これが完成したらそれをもとに保険収載から外すべき医療サービスの同定、つまり公的医療保険の「事業仕分け」をするべきだと私は考えています。
アメリカで行われた研究では、総医療費の2.0~2.6%が低価値医療(無価値医療を含む)の提供に使われていました。この割合を日本の医療費のデータに外挿すると、日本でも約9500億円~1.2兆円の医療費が低価値医療に使われていると推測されます。
カナダのオンタリオ州では、低価値医療の一つである血中ビタミンD測定を、2010年12月に保険収載から外しました。その結果、実施された血中ビタミンD測定の数は93%も減少しました。
日本でも、例えば風邪に対する抗菌薬使用は低価値医療と厚労省も認識しており、減らすべくキャンペーンをしたり、2018年4月以降は小児科外来で抗菌薬を処方せずに、患者およびその家族に抗菌薬が不必要であることを説明すると800円の診療報酬点数を付けたりしています。
しかし、これらの効果は限定的であり、上記のカナダの例のように保険収載から外す方が効果が大きいことは明らかです。
日本ではしばしば議論になる、重度の認知症患者(進行した認知症が原因で経口摂取が難しくなった患者のこと)に対する胃ろう造設も、無価値医療の一つだと考えられています。
一般的に、重度の認知症患者に対する医療の目的は、延命ではなく、生活の質(Quality of life)の向上です。そして、胃ろう造設は生活の質を改善させないだけでなく、(介助による経口摂取と比べて)誤嚥性肺炎のリスクも減らないと報告されており、米国や英国のガイドラインでは推奨されていません。
日本でも、重度の認知症患者に対する胃ろう造設を保険収載し続けるべきかどうか、国民的議論が必要だと思います。
日本の医療費適正化は待ったなしの状況ですので、きちんとエビデンスで証明されてる無価値医療は、保険収載から外すという判断が必要だと思います。もちろん、保険収載から外された医療サービスは、その後新しいエビデンスが出てくれば、また保険収載される可能性はあるべきだと思います。
このように、その都度最善のエビデンスをもとに、臨機応変に保険収載されている医療サービスを取捨選択することで、国民の健康への悪影響なく、医療費の削減が可能になります。
この3つの改革を行えば、最大7.3兆円の医療の無駄を削減できます。政府や厚労省には、国民の健康に深刻な影響を与える高額療養費制度の改悪を検討するより先に、やるべきことがあるはずです。
文/津川友介
※詳しい計算式は筆者のnoteをご参照ください