あのリフを一変させたのは、キースに送られたファズ・ボックスのサンプル品

ローリング・ストーンズの名前を世界に知らしめた『サティスファクション』の原型は、40分のいびきと一緒にカセット・テープレコーダーで録音されていたという。

キース・リチャーズにはその曲を書いた確かな記憶がなかった。しかし、夢の中で何かがひらめいたような気がした。そして翌日、テープを聴き直すと、確かにいびきといびきの合間にギターのリフが残っていた。

単なる大まかな曲想だけだったが、キースにはそれで十分だった。

40年にわたり米コネチカット州に住んでいるキース・リチャーズは、3月5日に「知事特別賞」を受賞した。現在、キースは81歳だ(写真/Shutterstock)
40年にわたり米コネチカット州に住んでいるキース・リチャーズは、3月5日に「知事特別賞」を受賞した。現在、キースは81歳だ(写真/Shutterstock)
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夢でひらめいたギターリフを実際にカセットテープに録音したのは、ローリング・ストーンズがフロリダ州のタンパ・ベイエリアにある、ジャック・ラッセル・スタジアムでコンサートを行った翌日、どうやら1965年5月7日未明のことらしい。

翌朝の地元セント・ピーターズバーグ紙には、舞台最前列に陣取った警察官と会場にいた200人ほどの若者たちが、激しくやり合ったことが大きく報じられていた。

アメリカの若い世代の行き場のないフラストレーションが、宙をさまよったままキースが見ていた夢に、自然に入り込んだのかもしれない。

宿泊先だったクリアウォーターのモーテルにあるプールサイドで、ミックとキースはギターのリフから曲を仕上げていった。

当時のミックと俺の典型的な合作だ。曲と基本的なアイデアはたいてい俺が作る。ミックはそこを埋めて、面白いものにするっていう仕事を引き受ける。

米フロリダ州クリアウォーター(写真/Shutterstock)
米フロリダ州クリアウォーター(写真/Shutterstock)

最初のレコーディングはツアーの合間、シカゴのチェス・レコードで5月10日に行われている。そのフレーズがマーサ&ザ・ヴァンデラスの『Dancing in the Streets』のリフに似ていないか、キースにはかなり気にしていた。

だが、ギブソン社から偶然にもキースの元に送られてきたファズ・ボックスのサンプル品が、そのリフを一変させることになった。

1955年にロックの殿堂入りを果たした女性コーラス・グループのマーサ&ザ・ヴァンデラス。写真は『Dancing in the Streets』も収録されている『マーサ&ザ・ヴァンデラス・ベスト』(2015年8月26日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット
1955年にロックの殿堂入りを果たした女性コーラス・グループのマーサ&ザ・ヴァンデラス。写真は『Dancing in the Streets』も収録されている『マーサ&ザ・ヴァンデラス・ベスト』(2015年8月26日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット

ファズ・ボックスを使った有名なギターのリフは5月12日、ロスアンゼルスのハリウッドにあるRCAスタジオでレコーデングされた。

その時に「I Can't Get No Satisfaction(満足できないぜ)」と言わんばかりに、キースのギターがファズトーンの力を得て炸裂したのだった。

ただし、キースはその『サティスファクション』を、まだ完成したとは考えていなかった。