「夫が毎晩、迫ってくるが、頻度が異常」で認知症外来を受診
高齢者介護の道一筋で、社会福祉士と精神保健福祉士(PSW)の資格の保有者である中村さんは、40歳の時に転機があり、高齢者介護の世界から、精神医療の世界へと転身した。
ソーシャルワーカーの元には、誰にも相談できない、身内の精神疾患に悩む家族が日々、連絡してくる。
「特に、高齢者の性の問題は、昭和世代は “秘め事” という意識が強いです。それなので、“(家族が)恥ずかしいことをしている” と前置きして、しどろもどろに相談する人も多いです」(中村さん、以下同)
その中で、中村さんの印象に残った高齢者の話を聞いた。
「認知症の症状に、いわゆる “色ボケ” と言われる、性的逸脱行動があります。旦那さんが、日常生活では普通なのに、夜になると、奥さんに性行為を求める。
それだけなら、性欲は高齢者になろうとあるので、問題ではないです。だけど、そこに認知症があると、自分が勃起しない・射精しないのに、夜に何度も奥さんに求め、奥さんが眠れなくなったケースがありました」
夫は75歳で、妻は70歳前半の夫婦だったという。
夫は、勃起しない・射精しないことを忘れて、何度でも迫ってくる。妻は薄々、認知症を疑っていたが、受け入れ続け、不眠になった。その末の夫婦での認知症外来の受診だった。
「旦那さんは、自分がもう “できない” ことは悟ったようで、受診のときに、何とも言えない悲しい顔をしていました。
だけど、やはり認知症の症状で、悟ったことも忘れてしまいます。それでも、奥さんは、自尊心を傷つけないために、拒否しなかったそうです。夫婦愛ですよね」
こういったケースは決して少なくはないという。
最悪、身体拘束も……
性的逸脱行動が、家庭内だけで収まっている場合はまだいい。
「ある男性高齢者は、どうしても周囲の女性の尻や胸を触るなどのセクハラをしてしまうので、受診しました。そういった人は、入院しても、他の患者さんに迷惑をかけてしまう。最悪、薬での鎮静や身体拘束する場合もあります」
昨今では、人権的な問題から、身体拘束の基準は厳しくなっている。とはいえ、他の患者がセクハラ被害に遭っていいわけではない。
性的逸脱行動をするのは、もちろん、男性高齢者だけではない。
中村さんが特別養護老人ホームに勤務していた頃、ショートステイに来ていた高齢女性は、紙おむつ一丁で、男性高齢者のベッドに潜り込むため、出禁になった。
他にも、寂しさを埋めるためか、女性高齢者同士が、一緒に眠っているところを発見したこともあるという。