ガザの虐殺を否定できないハリスとマッチョイズム
最も近い場所にある投票所に足を運んでみた。この地域の公立小学校だ。警備が厳重だとのニュースを多くみたが、ここはそれほどの警備が行われていないようにみえる。もちろん部外者が投票所の中に立ち入ることはできなかったが、それでもどこかのんびりしていた。
入り口で入場者の監視の仕事にあたっている人はたった一人の男性。話を聞くと、早朝は一時的に長い行列ができたそうだが、僕が訪ねた時は人々がゆったりとした様子で三々五々やって来て、緊張感があまり感じられなかった。
投票所の案内の貼り紙を見たら、英語とスペイン語と中国語の3か国語で書かれてあった。この周辺の住民構成が何となく想像できる。近くの路上にハリス支持の2人の運動員がいた。スティッカーやバッジをご自由に、ということで日本ではちょっとお目にかかれない光景だ。
だって投票日当日に投票所入り口のすぐ近くで、自分たちの応援する候補への投票を呼び掛けているんだから。こちらはアメリカ人でもないし有権者でもないので、自由に好き勝手に話を聞くことができる。
――どちらが勝つと思いますか?
運動員 もちろんカマラ・ハリスよ。彼女は素晴らしい。
――日本から取材に来ている記者なんですが、なぜ両候補ともパレスチナでいま起きていることを虐殺だと非難しないのですか?
運動員 ガザで起きていることは悲しいけれども、イスラエルの人たちの人質が一刻も早く還ってきて、軍事行動をやめて問題を解決してほしい。
その程度ならだれでも言えるだろう…とは言えなかった。
午後4時頃テレビをつけると、テレビ局が投票所の中から生中継をしていて、行列をつくっている人々にリポーターが自由にインタビューをしていた。投票箱に辿り着くまでは2時間待ちだとか、のどが渇いて居る人にボランティアが水を配っているとか、とにかく報道が自由なのだ。
それで考えた。どうして日本の選挙および選挙報道は何から何まであんなに不自由なんだろうか。本当にアメリカの選挙をみていると、民主主義の学校なんだな、とつくづく思う。ここで有権者たちはいろいろなことを学ぶ。
激戦州のうち、ブルーウォール(もともとは民主党の牙城だった州)と言われているペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州をどちらが制するかがカギだった。
もうひとつの要素は、女性である候補を押し上げようという、支持政党を問わず世界規模で広がってきているジェンダー平等という大きな流れが票にどう反映されるかだ。
マッチョイズム(男性中心主義)の権化のような存在のトランプよりは、カマラ・ハリスを応援したいという潜在的な流れがあることは確かだ。その流れはヒラリー・クリントンの時よりは強いような気がしていた。
だが先に述べたように勝敗は決してしまった。
明日、僕が信頼している唯一の米メディア・アウトレットDemocracyNOW!を訪ねる予定だ。彼らの考えを訊いてみたい。おそらくエイミー・グッドマンは、こんな程度ではへこたれない。
文/金平茂紀