雷鳴が轟く中、西城秀樹が熱唱した『エピタフ』
プログレッシヴ・ロックの金字塔と評価の高いアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』には、『エピタフ(墓碑銘)』という9分近い大作が収録されている。
『21世紀のスキッツォイド・マン』と並んで、幻想的なメロディや独自の世界観で人気が高いこの曲は、歌詞のなかでも明らかに「死」の世界や、この世の悲劇にも言及していることは明確だった。
当時はカウンター・カルチャーの時代だったこともあり、日本のリスナーにも身近なテーマに感じられたに違いない。歌い出しの歌詞からして、早くも終末感が漂ってくる展開になっていた。
さらに強烈なヴィジュアルによるイラストのジャケットも、リスナーの想像力を大いに刺激した。キング・クリムゾンは、熱心な洋楽ファンの間ではかなり注目されていたのだ。
そんな中、『エピタフ(墓碑銘)』を自分のものにして、のちに後楽園球場のステージでカヴァーしたのが、“ロックの申し子”ともいえる西城秀樹だった。
1979年にリリースした2枚組のライブ盤『BIG GAME ’79 HIDEKI』に収められた『エピタフ』は、激しい雨にみまわれながらも、雷鳴が轟く中で決行されたことで、この日のハイライトになっていた。
コンディションが最悪に近い状態だったので、中止も考えられる状態にあったことは容易に想像できる。実際にライブ音源として使えない曲もあって、2曲ほどはアルバム収録のために、スタジオで追加レコーディングを行ったという。
だが、シンプルで武骨とさえいえる『エピタフ』は、歌と演奏が完全に一体化して、この日にしか表現できない領域にまで達していた。そういう時にこそ、西城秀樹というアーティストは真価を発揮する。
ちなみにこの日、西城秀樹が『エピタフ』の前に歌っていたのは、クイーンの『ドント・ストップ・ミー・ナウ』だった。
本人もスタッフもロックが心から好きで、しかも研究熱心だったからこそ、積極的に洋楽をライブで取り上げていたことがよく分かる。
キング・クリムゾンと西城秀樹。意外な繋がりを感じながら、伝説の『クリムゾン・キングの宮殿』を聴くのもいい。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル:左:『BIG GAME '79 HIDEKI』 (2022年6月24日発売、Sony Music)。右:『クリムゾン・キングの宮殿 SHM-CDレガシー・コレクション1980』(2023年6月7日発売、UNIVERSAL MUSIC)
参考文献
「クリムゾン・キングの宮殿~風に語りて」シド・スミス著/池田聡子訳(ストレンジ・デイズ)