アジアパラでつかんだパリへの切符

そして2か月後、中国・杭州で開かれたアジアパラ競技大会(2023年10月)の舞台に立ち、圧巻のパフォーマンスを披露した。 「今までは攻撃をしなかったんですけど、攻撃を自分からする展開と、逆に攻撃はしないけどしっかり守り切る展開を、使い分けるようにしました」

研究は実を結んだ。 「動画を分析して、この子はこのサーブを出したらこう返してくるっていうのを考えながらやりました」

決勝戦の相手は、因縁のウォン選手。壮絶なラリーの応酬の結果勝利した。試合後、人目もはばからず涙を流し、そして自分に言った。「すごく、がんばった」

タイでの悔し涙とは違う、成長の証の涙だった。 「その子に勝つことだけを目標にやっていたので」 連戦の末、アジア王者となってつかんだパリへの切符。「もうパラリンピックの前に他の大会に行かなくていいんだ」とホッとした勝利でもあった。

「他の選手の方が私のことを怖がってる」

次に目指すものは、パラリンピックの金メダルだ。今年5月の国際大会では、最大のライバルである世界ランキング1位のエブル・エイサー(トルコ)に決勝で敗れた。

「世界ランキングの一桁台になると、実力差よりも、その日のコンディション、気候、湿気、温度、食事など、ベストなコンディションにもっていけた人が勝つんじゃないかと思っています。世界1位の選手がどんなレベルか知れたので、ここをこうすればしっかり点数取れるなっていうのはわかりました」

世界の頂点で戦う準備はできている。

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「パリはまだ行ったことがない国で、規模も大きい大会だし、他の競技の選手もいるってのが楽しみですね」と初めてのパラリンピックを心待ちにする。 「“勝たないと”って気負わないで、一戦一戦を大事に挑みたい。急に出てきて、急成長しているっていう点では、他の選手の方が私のことを怖がってるぐらいかなと思うので、挑戦しに行くぞって気持ちでいます」

パラリンピック開幕翌日の8月29日が誕生日。負けず嫌いで泣き虫、恐れ知らずで笑顔がいっぱいの21歳が、世界の階段を軽やかに駆け上がっていくだろう。

取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]

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