オリンピックの⾺術競技

World Nomad Games─国際遊牧⺠競技⼤会をご存知だろうか。遊牧⺠に伝わる伝統的競技を競う国際競技⼤会で、2014年のキルギス⼤会から始まった。私は勝⼿に「遊牧⺠オリンピック」と呼んでいる。

ノマド・ゲームズは2014年の第1回⼤会、2016年の第2回⼤会、そして2018年の第3回⼤会と、3⼤会連続してキルギスで⾏われた。次の第4回⼤会は、時期や会場のなどの詳細は不明だが、2020年にトルコで開催されることが決まっていた。

しかし周知の通り、2020年が明けるとほぼ時を同じくして、新型コロナウイルスが全世界で感染拡⼤した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは早々に延期されることが決まり、ノマド・ゲームズも当然ながら延期となった。

2021年に延期開催された東京オリンピック・パラリンピックは、⾺が登場する競技をひたすら⾒続けた。⽪⾁なことにそれが、よりいっそう⾃分の⼼をノマド・ゲームズに向かわせる結果になった。

⽇本では⾺術競技がマイナーで、さほど⼈気もないため、地上波テレビや衛星チャンネルではほとんど放送されない(通常は競⾺中継をする「グリーンチャンネル」では中継された)。頼りはもっぱら、NHKがインターネットで提供する中継映像だった。

ところがこの中継、⽇本向けではなく、全世界に向けたオフィシャル映像であるため、アナウンサーの実況も解説もすべて英語である。

バリバリのブリティッシュ・イングリッシュをまくしたてる実況アナウンサーと解説者のかけあいを聞きながら眺めていると、わが家から10キロも離れていない世⽥⾕区の⾺事公苑や、江東区の埋め⽴て地に造られた「海の森公園」が、まるでどこぞの異国のように思えたものだった。

⾺が好きだから、すべての⾺術競技を楽しんだ。それはそれなりに幸福な時間だったが、同時に様々なこみ⼊った感情が湧き上がるのも感じた。

ブリティッシュ・スタイルで⾺術の技術の⾼さと美しさを競う「ドレッサージュ(⾺場⾺術)」。⾺と息を合わせる「⼈⾺⼀体」の競技といわれ、男⼥の区別なく⾏われるジェンダー・フリーの競技である。が、その根底にあるのは、⾺を完全にコントロールして意のままに動かすという、あくまで⼈間上位の発想だ。

その⾒返りとして、⾺は最上級の扱いを受け、ホームファームから丁重に航空機で運ばれてくる。さらに付け加えると、⾺術競技で⾼得点を叩き出す名⾺は各国の有⼒選⼿から引っ張りだこで、世界を股にかけた⾼額争奪戦が繰り広げられる。

写真/Shutterstock
写真/Shutterstock
すべての画像を見る

障害物を跳んでタイムを競う「ジャンピング(障害⾺術)」も然り。アメリカの⼤御所ロックシンガー、ブルース・スプリングスティーンの娘ジェシカがアメリカ代表として出場し、団体戦で銀メダルを獲得したことも話題となった。⾮常に⾦のかかる競技であることを、あらためて痛感した。