最大の課題は歯科技工士が直接保険請求できないこと
そんな歯科技工物が口に入れば当然不具合が起きてくる。だが、例えば入れ歯なら6ヶ月に1回、作り直しに保険が適用される。「半年使えるものでいい」という感覚で口にはめられ、患者が違和感を訴えても「保険(診療)だったらこんなもんです」と取り合ってもらえない治療が蔓延しているというのだ。
Aさんはこうした風土の中で多くの技工士の技術が劣化し、また待遇が改善されないことを憂慮しているという。そしてこの状況は歯科技工士が保険点数を直接請求することでしか打開できないとみる。
「技工士が直接請求すれば技術の向上は絶対見込めます。だって技工物の料金が(歯科医が示威的な取り分を得られなくなることで)同じ料金になれば、歯科医はより上手な技工士を探すし、歯科医自身も(型取りの技術を上げるため)一生懸命勉強する、という流れが起きると思います。患者さんの口に入れる時に1時間かけて“合わせる”必要がある入れ歯よりも、すぽっと入る入れ歯を用意した方が歯科経営にもプラスになるからです」(Aさん)
集英社オンラインが歯科技工士業界の現状を伝える連載を始めてから、全国の技工士やその家族から多くの声が寄せられた。おおむね共通していたのは、保険点数請求を直接行えないことで歯科医にピンハネされ、良質な入れ歯を作りたくともかなわない、という嘆きだった。
こうした訴えを政治はどう受け止めるのか。自民党の『歯科技工士に関する制度推進議員連盟』(上川陽子会長、松本洋平事務局長)に、
①歯科技工士と歯科医がおおむね「7対3」の割合で技術料を配分するとの国の指針が履行されていない状況を改善するため何が可能か
②歯科技工士からは保険請求を直接行えるよう制度を改めてほしいとの要望が多くあるがどう考えるか
③最低賃金水準の所得の確保も難しいとの指摘がある歯科技工物の製作にかかる保険点数の水準をどう評価するか
④歯科技工物を医療機器として位置付けるべきだとの声をどう考えるか
―など、連載で浮かび上がってきた課題を尋ねると、項目を分けずに一括して回答があった。