いずれあなたも「入れ歯難民」に……?
虫歯や歯周病に限らず、歯の心配をせずに一生を終えることのできる人は皆無に近いだろう。
しかし、それだけ身近な歯の健康を歯科医とともに守ってきた「歯科技工士」(歯科医の指示書に従い、入れ歯や歯の被せ物・詰め物などを作成・加工・修理する人)が、業界もろとも沈没しかねないほど、苦境に立たされていることはあまり知られていない。
高度な技術を要するにもかかわらず、納める製品は医療機器扱いされず、自由競争の名のもとにダンピング(不当廉売)を強いられる。
そうした構造的な問題は改善されずに放置され、それにより“担い手不足”が発生し、斜陽産業化にさらに拍車がかかる、という悪循環が続いている。このままではあなたも「入れ歯難民」になってしまうかもしれないのだ。
関東地方で長年、歯科技工所(通称「ラボ」)を営むA氏が嘆息する。
「私たちが作っている被せ物や詰め物、入れ歯などの装置は、医療機器として認められず雑品扱いのため、保険点数が決まっているのに価格競争を強いられています。保険請求をするのは歯科医で、我々はあくまで下請けなんです。
医療機器であれば100%のはずの技工士の取り分も、国が何十年も前に『技工士と歯科医の取り分は7対3ぐらいが妥当じゃないですか』とガイドラインを提示しただけ。
実際は構造的にダンピングを余儀なくされるので、その割合はロクヨンになり、五分五分になり、場合によっては逆転することだってあります」
さらにA氏はこう続けた。
「保険点数は装置(技工物)に応じて決まっていて、たとえば5000円の被せ物があるとすれば、その内訳は材料費に加え、歯科技工士の技工料と歯科医の技術料で成り立っています。しかし、実際は歯科医がまとめて保険請求するので、たとえば同じ被せ物をA社が3000円、B社が2000円、C社が1000円で納品するとなれば、歯科医はC社に頼めば、自分の実入りが一番よくなります。
これが雑品でなく、医療機器として認められれば、装置の価格自体が同じになるので、歯科医も『じゃあ一番上手なラボに頼もうか』ということになります。それがあるべき『競争の構図』だと、私は思います」