「40年以上前からほとんど技工料が上がっていない」
最初に話を聞いたのは、東京都内で技工所(ラボ)を経営している60代の男性。技工士の労働条件や収入、医師との関係性などについて、実情を話してくれた。
–––まずは歯科技工士の「栄枯盛衰」についてお伺いします。歯科技工士は、実際に稼げなくなっているのでしょうか?
私は技工所を始めてもう40年以上が経ちました。技工士になったころは、上の世代の人たちは稼いでいましたし、私も普通に働いていればそれなりに稼げていました。それが少しずつきつくなっていった、という感じです。
正確には「稼げなくなった」というよりも、40年以上前からほとんど技工料が上がっていないんですよ。物価上昇で材料費や家賃といった諸経費がどんどん上がるのに対して、実入りが変わらないので、相対的に稼げなくなっているのが実情です。
たとえば、保険適用のメタルZインレー(銀歯)の場合、技工料は1本1000円を切ります。もちろん技工所によって価格は違いますが、うちでは800円程度で受けていますね。でも、それを1本仕上げるのに3時間近くかかるんですよ。
何本か同時並行で作業するので一概に計算はできませんが、時給で考えたらコンビニで働いたほうが稼げるのではないかと思うくらいです。だから、受注量を増やしてカバーするしかなくて、1日10本くらいは仕上げています。
保険適用のものだけではなく、インプラントやセラミックなど自費診療のものも引き受けていますが、やはりそちらのほうが利益率は高いです。インプラントやセラミックのインレー(詰め物)などは、1万円~2万円くらいの技工料になりますから。
–––歯科医師との関係について、ダンピングが問題になっていると伺っています。
昔からの構図なのですが、歯科医師あっての技工士なので、技工士は歯科医師よりも(立場が)下なんです。なので、平気で「これ、ほかの技工士は1000円以下でやるって言っていたよ。その価格なら、もう仕事はないと思って」とか言われますよ。
ほかにも、たとえばインプラントの場合、患者が自費で30〜40万円の高額な費用を支払うので、3年間の補償期間などを歯科医師が設けることがあるんです。技工士には何の相談もなくやっているのに、「作ってもらったインプラントが壊れたから、無料で直してよ。補償期間だから、患者からお金を取れないんだ」と持ってくることもあります。
さすがに無償はしんどいので、そのときは「2000〜3000円でいいからください」と言い返してから対応していますけどね。