「養成学校は45校程度に、毎年の卒業生は1000人に満たなくなった」

——まず歯科技工士の業界の現況を分析していただけますか。若い人にとって魅力が薄れ、担い手が減っているとも聞きます。

森野隆会長(以下同) 1955年に今の歯科技工法が制定され、歯科技工士の資格が誕生して来年で70年になります。私が学生だった約45年前には全国に養成学校が70数校、入学競争率も2~3倍あり、毎年3000人ぐらいが卒業していました。

今はそうした学校も45校程度に減り、毎年の卒業生も1000人に満たなくなっています。そんな中でも成功されて儲かっている人たちもいて、私自身は「そんなに悪い仕事じゃないのに」と思うのですが、YouTubeなどで「若い人は絶対なっちゃダメだよ」みたいなネガティブな動画を配信するような人たちもいて、誤解されている面もありますね。

——技工士の有資格者と実際に現役で働いている人数はどれぐらいですか。

歯科技工士は厚生労働大臣免許になり、有資格者は12万人を超える程度です。実際に働いているのは3万3000人ぐらいで、50歳以上が5割以上と高齢化しています。毎年1000人弱の新規合格者が出ても、転職者が多いという印象があります。

実際にデータを取っているわけではないのですが、ほかの業界に比べると離職率が高いという自覚はあります。正確な数字がつかみにくいのは、卒業生の「その後」をフォローするべき養成学校が、経営難から毎年数校ずつなくなっているのも理由の一つですかね。

その根底には、「日本の歯科医療費が安い」という問題があります。日本歯科医師会の調べでは、米国では約40万円の総入れ歯が、日本では約2万5000円で手に入る。

保険を使って一割負担なら2500円、上下合わせて約5000円で入っちゃうんですよ。米国なら上下で80万円かかるのに。米国は自費で自由診療、日本は国民皆保険の中の技工ということになりますが。

取材に応じる森野隆会長(撮影/集英社オンライン)
取材に応じる森野隆会長(撮影/集英社オンライン)
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——材料費は高騰し続けていると思いますが、それに応じて料金改定はないのでしょうか。

保険点数改定が2年に一度なので、その間に電気代や物価が上がったとしても即応はできませんね。ただし、金、銀等の貴金属材料の保険点数については国際価格の変動を受けて年に数回見直される制度があります。

われわれの職業(歯科技工業務)自体、もともとは歯医者さんが全部やっていて、そこに助手として入ったわけです。その後1955年に歯科技工士が資格制度になった。助手、補助者としてスタートした仕事が、時代の変化で独立した一つの職種として認められた。

一方で、歯科医の国家試験から歯科技工の実地試験がなくなり、若い歯医者さんの中には技工をやらない方も多くなっています。完全に分業になってきているんです。