的確に言語化し、伝える。言わずとも分かってもらえるとは思わない
――佐久間さん自身にメンター的な存在はいたのですか?
具体的にはいなかったですね。それよりも周りの人たちを見渡して、いろいろな人の「この部分はいいな」というポイントをいくつか集めていった感じです。
なによりもまず自分を知ることから始めたというのはすごく大きいと思います。本にも書いていますけど、大学時代にサークルで無理をするような場所にいて、イヤだと言えずにずるずるやっていって、メンタルをすり減らして、結果的に壊れる寸前まで行っちゃったことがありました。
そのとき、いったん心が壊れると回復までに時間がかかるということに気づいて、一度自分のことをちゃんと知ろうと思いました。「自分はこういう習性があるから、先回りして対策をしないといけないな」という、自分自身の取り扱い方法を社会人になる前に知れたのは大きかったと思います。
だから、社会人になったときに、周囲で壊れる人も多い中、自分ができる範囲での正当な努力とは何だろう、と考え続けることができたんだと。
――本の中ではいろいろな技術が語られています。佐久間さん的にいちばん役に立っているなと思う技術は何ですか?
人に対して、言わないで分かってもらおうとする姿勢でいるのではなく、的確に言語化するという技術ですかね。言わなくても分かってもらえる、ということはないので。ハレーションを起こさずに、どう正しく効果的に伝えるか。この技術は中年になってからもすごく役に立っています。
とはいえ、伝わる人と伝わらない人というのはいますし、伝わらない人に対してはどこまで落とし込んで話すべきか、ということは今も試行錯誤しながらやっています。
――たとえば、仕事上のチーム内で方向性がかみ合わないときはどうしているんですか?
どうしても通じないときは、具体的に自分が実践してみせるしかないと思っていて。なおかつちゃんとルールも作る。やるべきこと、やっちゃいけないことを明示するように心がけています。
例えば、僕が携わっている「あちこちオードリー」という番組では、たとえ強くて引きがあるコメントでも、視聴者の方から誤解されるリスクがあるなら最終的に放送しない、とか。次回予告でも扇情的なものを作らないといったルールがあります。
その理由は1回の扇情的な予告で集めた話題性より、誠実な編集を心がけて、この番組は本音を話しても大丈夫だと思われるブランドを築くことのほうが意味があると考えているから。
ほとんどのスタッフは短期的な利益より番組のブランドと信頼を獲得したほうが、結果的に自由にしゃべってくれる人が増え、キャスティングだって魅力的になることも分かってくれます。でも、全員がすぐにこういった共通認識に至れないこともあるので、方針として示すようにはしていますね。
――仕事の場だと、ときに注意したり、怒ったりする場面もあると思います。そういうときに気を付けていることは何ですか?
感情に任せたことはあまり言わないことかな。あとは、その「事象」に対しては怒るけど、人には怒らないようにしていますね。人に対して怒るときは、まず信頼関係ができているかどうかが重要。
信頼頼係が築けているんだったら、怒っても大丈夫だと思うんです。でも、そこの部分がないんだったら、起きた事象に対してのアラートは出すけれども、人に対しては怒らないように気を付けています。
いろいろなものをインプットして、何事に対しても常に自分の意見を持つ
――メンタルヘルスの重要性がこの本のテーマの一つでもあると思うのですが、中年クライシスという言葉があるように、中年期は心身が不調に陥りやすかったりします。そうならないために、佐久間さんが心掛けていること何ですか?
僕自身、40歳を超えたときに、苦手なものは一生苦手なままだし、案外克服できないものだなとわかったので「いい諦め」をしていくということでしょうか。
「(自分の)この苦手分野はもう諦めて、別の方向で注力しよう」とか、徐々にいい諦めをしていくと、いい老後の準備になるなと思っています。得意じゃないところを伸ばしていくのは効率が悪いじゃないですか。
もちろん最低限人に迷惑が掛からないようにはするけれども、それよりも自分の長所になるかもと思う部分を伸ばしていったほうがいいですよね。
――自分がもう一人欲しいなと思うことはありますか?
あぁ。確かに助かることも多いと思います。でも、自分と違う人間と掛け合わせてしかできないもののほうが面白いだろうなと思うんですよね。
自分の価値観と似ているような人を集めると、単なる再生産になっていくということに30代ぐらいで気付いて。そうなると、同じジャンルでの成功体験だけを追い掛ける仕事になっていく気がしたんです。
YouTubeの「佐久間宣行のNOBROCK TV」はIT企業のチームと組んでいるんですけど、それもこの考えがベースにあります。テレビと全く同じやり方を踏襲してコンテンツを作っていたら、3年でこういう変わった立ち位置で仕事はできなかったんじゃないかと思います。
――一度成功したら、同じモデルで再生産し続けたほうがラクとは思わないんですか?
あまり思わないですかね。むしろ、つくるものに当たり外れがあるなと思われていたほうが健全だなって気がするんです。「当たり回ばかりだな」と言われると、一定の層の人にしか受け入れてもらえていないようで、ちょっとヤバいかな、と考えるほうなんです。
なので、評判のいい仕事ばかり選ばないようにしたり、偶然の巡り合わせも大事にしたりもしています。
――常に刺激が必要だってことですね。
そうですね。刺激とかリスクがあったほうが、見たことのないものが生まれるし、そうやって生まれたものが自分を知らない場所に連れていってくれると思っています。
――価値観や意識のアップデートという部分はいかがですか? アップデートできない中高年がさまざまな場面で地雷を踏んだりする事案はよく耳にします。
僕の場合ですが、アップデートのコツは、常にいろいろなものをインプットし続けることですね。昔から好きなものだけ、とか、得意だったものだけの世界にいると、地雷を踏むことが多い気がします。
今のものを見続けたり調べ続けたりすることって正直面倒くさかったりします。でも、それをやっている自分が5年後の自分を助けているイメージが僕にはあるので、やり続けなきゃいけないなと思います。
あと、別に発表はしなくていいんですけど、世の中で起きている事柄に対して自分の意見を持つというクセは付けておいたほうがいいかな、と思っています。
選挙も投票し続けておかないと、自分の意見がマジョリティかどうか分からないじゃないですか。白票でいいやと思ってそれを繰り返していると、自分の意見がマジョリティかマイノリティかも分からなくなります。いろいろなものを絶えずインプットして、何事に対しても常に自分の意見を持つようにする。それを地道に続けることが価値観や意識のアップデートにもつながっていくんだと思います。
楽しい余生を過ごすために、自分の好きなものを世の中に増やしたい
――佐久間さんの直近の悩みって何ですか?
ヘンな話ですけど、一向に仕事がちょうどいい量にならないというのが悩みですね。声をかけて下さった気持ちが嬉しいし、ありがたいから、ついついお受けしていると、ちょうどいい仕事の量にならなくて……。とんでもなく野心あふれる人間じゃないので、バランスの取れた仕事をしながら50代を迎えたいと思っているんですけど、なかなかそうはなっていないです。
――まだまだしばらくは走り続ける感じですかね。
バランスを取りながらでしょうか。新しいことを試す余裕がある状態で50代を迎えたいと思っているんです。フリーになってから、どんな仕事でもまず挑戦しようとできるだけ受けていたら、なかなかの忙しさになっちゃいましたけど、まもなく50代になるわけで。そろそろ次の新しい武器(自分の得意分野)をつくりながら、どの場所で楽しく仕事しようか考えないといけないなって。
――差し支えない範囲で、これからどう動いていこうと考えているか教えてもらえますか?
YouTubeをIT企業とつくっているので、僕のエンタメの知識とかお笑いの中で学んだシステムを、もっと広げることができないかな、と考えています。例えばアプリに落とし込むとか。あとは、それこそ『トークサバイバー!』のアメリカ版を作るとか、お笑い番組のフォーマットを世界に輸出したり、今まで培った知見を世界に向けて出していくことができたら面白そうだなと思っています。
――では、今までまったく頭になかったけれども、これはちょっとやってみたら面白そうかなと思っていることはありしますか?
サラリーマンじゃないから、やろうと思えば何でもできるんですよね。そういう意味では、高校時代にバイトしていたカレー店(いわき市の「グラフィティ」)が人生で一番好きなカレーなんですけど、そこが閉店しちゃったので、その味を復活させたいなと密かに思ったり。
――カレーですか!
もちろん許可をいただけたらですけど、ちょっとやってみたいなとも(笑)。
――未来の話になりますが、最終的にこうなっていたいと思う理想の姿はあるのですか?
めちゃくちゃゲームとかやっているおじいちゃんになりたいですね。「クリアしたいゲームがあるのにな」と思いながら死にたいというか。次にやりたいことがある状態で人生が終われたら理想だと思います。
やりきったなと思う余生よりも、「明日あの本を読もう」とか、「明日あのゲームをやろう」と思えている自分でいたい。だから、仕事で好きなものを増やしたいなと思っているんですよね。
仕事のモチベーションは何かと聞かれたら、自分の好きなものを世の中に増やしたいということなんですけど、それって要するに楽しい余生を過ごしたいからなんです(笑)。
――完
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テレビプロデューサーとして地上波番組や配信コンテンツを数多くヒットさせ、さらにラジオパーソナリティにバラエティ番組MCと、メディアのジャンルを超えて活躍する著者。
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✔️世間や友人をつい批判的に見て、結果自己嫌悪してしまいます。
✔️SNSを見ると心が病みます。上手な付き合い方は?
✔️やりたいことはあるのに行動力のない自分にがっかりします。
✔️上司は仕事ができない人間です。考え方や仕事の進め方も合わなくてストレスが溜まります。
……etc 雑誌『SPUR』での連載や講演会などで寄せられた悩みにもこれまでの経験と著者ならではの視点からズバリ“明朗回答”。 自分の軸を整えながら生き抜くための珠玉のメッセージは必読。
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※「よみタイ」2024年7月26日配信記事
聞き手・文/澤田真幸 撮影/角田航(TRIVAL)