収入という「目に見えすぎる上下関係」
臨床心理学研究者の森裕子氏とお茶の水女子大学人間科学系准教授の石丸径一郎氏の論文によると、女性は自分の優位性を示すとき、3つの軸があるという。
伝統的な女性らしさを持つ女性vs自立した地位ある女性vs性的魅力を持つ女性のうち、どれかに秀でていたとしても「でもあなたは○○がないから」と他の軸で自らの優位性を示すことができる。そのため、女性同士の優位性には勝ち負けが表れにくく、競争や格付け争いが複雑化しやすいというものだ。
それに対して、男性の価値基準は概ねシンプルである。
•年収
•外見
総じてこのいずれかである。たとえば、男性が男性に年収を自慢されたとき、「でもお前は育児に参加していないから」と反論しても優位性は誇示できない。また、「お前、100㎏のバーベルも持てないくせに」と肉体的男性らしさをアピールしても、ギャグに映るのではないだろうか。
このように、男性社会における勝ち負けは実にシンプルである。また、年を追うごとに年収の価値も上がっていくため、中年男性においてはもはや「年収」の一極でもよくなってくる。
ところが、このわかりやすすぎる勝敗は「弱者性」と相容れない。負けた側は、勝った側と公平なスタートラインに立ち、能力不足で負けたとみなされやすいからだ。
だが、実際にはそうではない。たとえば、お茶の水女子大学が発表した「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」によると、親の年収は子の学歴に比例するという。
また、厚生労働省がまとめた「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、学歴別の賃金の平均は、高校が27万3800円、専門学校が29万4200円、高専・短大が29万2500円、大学が36万2800円、大学院が46万4200円である。つまりは学歴の高さと年収にも相関関係があるということだ。結果として、親の年収は子の年収に相関関係があると推測される。
東京大学学生委員会が行った「2020年度(第70回)学生生活実態調査」でも、東大生の親の42.5%が平均世帯年収1050万円以上だということがわかっている。年収アップに手堅い要素である学歴の最高峰においても、親の学歴が相関しているのである。
アメリカのデータでは、起業家の数には「親の年収」と明確な正の相関がある。親の年収が上位15%だと、起業家率がぐっと高くなるのだ。また、成功する起業家の年収は、親の年収と相関することもわかっている。
このように、年収とは親世代から受け継ぎやすいものだといえる。関連を考えても明確で、そもそも経済的に成功した者のもとに育てば、高年収になるコツを身近で学ぶことができる。
学歴を得るための支援も受けやすい環境だ。少なくとも「勉強している暇があったら親の面倒を見ろ」とは言われない。周りにドロップアウトを誘うような仲間も少ない。
奨学金があろうが、支援者がいようが、その情報自体を知らなければ、そしてリーチできなければ意味はない。貧困家庭に育つということは、単純に金銭面だけではなく情報面でのハンディも背負う。だが、現状ではそれが勘案されていない。