なぜ数字の食い違いが生じるのか
同じデータに基づいているにもかかわらず、人によって異なる結論が導かれる第一の原因は、どの年のデータをもとに比較するかで結果が大きく変わる点にある。
2010〜2011年度と2018〜2019年度で比較すると、相対的貧困状態の子どもの数、絶対的貧困状態の子どもの数はどちらも増加している(指標によって数字は異なっていて、その幅は10万人から60万人のあいだとされている)。
だが、2009〜2010年度と2018〜2019年度とで比べると、絶対的貧状態の子どもの数は減っているのだ。
両者の主張が異なる理由は、比較する年の選び方にあった。連立政権への政権交代が2010年5月だったことから、「政権交代直前の労働党政権時代」を2009〜2010年度か2010~2011年度のどちらとするのかは、それぞれの解釈しだいだった。
こうしたたぐいの曖昧さは、特定の何かを主張しようとしている人にとっては、非常にありがたいものだ。
また、さらにややこしいことに、非政府機関による貧困関連の推定値のなかには、政府のものとはまったく異なる状況を示しているものもある。その一例は、独立系機関の「社会指標委員会」によるものだ。
同委員会は、貧困に関する現実的な指標の考案を目的として、2018年に設立された。その推定値では、世帯の収入のみならず貯蓄なども考慮されている。
同委員会の2019年の報告書によると、英国において貧困状態で暮らしている人の数は、ここ10年間で60万人以上も減少している。
貧困に関する統計データは、基本的には「好きなものだけを選んで合わせる」ものだ。つまり、よい状況に見せたいか、または悪い状況に見せたいかに応じて、好きな取り合わせを選べばいい。
「貧困」には確立された定義がないため、さまざまな貧困の指標(公式なものもあれば非公式なものもある)から好きに選ぶことができる。
選び方しだいで異なる結論にたどりつく場合もあるだろう。減少または増加を主張したい場合も、それがよく表れるような年を選んで比較すればいい。
あるいは、子どもの貧困、すべての年齢層における貧困、世帯における貧困のデータのなかから、自分が訴えようと思っていることの最も強力な裏づけとなるものを選べばいい。
だが、これは、本当に適切な方法といえるのだろうか? 貧困の議論では、相反すると思われる主張のどれもが真実となりうるため、本当の意味で勝てる人は誰もいない。
統計学の専門家にとっての最善の策は、貧困の代理変数を一つだけ選び(どれも完璧ではないことを忘れてはならない)、徹底してそれだけを利用することではないだろうか。
問われているのは、「物事を経時的に比較するための、完璧ではないが一貫性が保たれている方法を確立させること」と、「たとえ経時的な比較ができなくなっても、数えたり測ったりする方法を常に改善しようとすること」の、どちらが有益かという点なのだ。