職員を苦しめる、会社の“売上至上主義”
このような中では、経営者もなんとか儲けを出そうと躍起になる。
自ら命を絶った吉田健司さんへと話を戻そう。吉田さんがかつて働いていた会社で、ケアマネジャーをしている男性は、週刊文春編集部にこんな情報提供をしてきたことがある。
〈私はA社(メールでは会社名)でケアマネジャーをしています。自社のサービスを使うように厳しく利益誘導、利益供与を強要されています。16年ほど前にコムスン(筆者注:かつて存在した訪問介護サービスの最大手)が同じようなことをしていました。
ケアマネは公正中立の立場で介護保険サービスを使うことが義務づけられていますが、A社では自社にサービスをどれだけ連動できたかで評価され、その金額に比例して手当をもらっています。それが利益供与にあたると思います。
また、ケアマネの自社への連動金額が少ないと、会議で叱責され、異動を命じられたりします。毎日会社と法律のはざまで苦しんでいます。日本最大手のリーディングカンパニーであるA社が、そのような不正をしていいとは思いません〉
関係者の話によると、A社では〈サービス品質向上手当〉と呼ばれるものが存在し、自分が担当した利用者へのサービスの売上に応じて、手当が支給される仕組みになっているという。自身の売上が上がるほど給与が増える。こうなると、会社全体の雰囲気が売上至上主義に傾倒していくのは容易に想像できる。会社と利用者の間で葛藤する吉田さんのような人がいる一方で、売上アップに必死になる職員も多くなるだろう。
果たして、介護という福祉事業を担う会社が、売上至上主義の経営でよいのか。このような体質は介護職を疲弊させるだけでなく、結果的に利用者にも何らかの形で跳ね返ってくるはずだ。
文/甚野博則
写真/PhotoAC