出没数減の見込みも、顕在化する新たなリスク

環境省の統計では、クマ被害による昨年の死傷者数は200人を超え、過去最悪を更新した。今年のクマ被害も昨年並みとなるのか? 前出の米田氏はこう見る。

「本州に生息するツキノワグマの場合、今年の出没数は平年並みか、それ以下の水準まで減少するでしょう。昨年はクマの主食となるドングリ類が大凶作で、山から餌を求めて人里に下りてくるケースが増えましたが、今年はドングリ類が並作~豊作に転じると予測されています。山に餌が豊富にあれば人里でのクマの出没は減り、被害も少なくなると推測できます。
また、昨年はクマの駆除数も過去最多でした。秋田県の場合、昨年は2183頭を捕殺していますが、これは、同県のツキノワグマの推定生息数(中間値:4400頭)のおよそ半数に上る数字。クマ自体が少なくなっているので出没リスクは低減すると考えられます」

ただ、新たなリスクも顕在化しているという。

「今年の3月以降、東北地方を中心にクマの目撃が増えだし、負傷者も数名出ましたが、この時期に出没が多いのは体長が50センチほどのコグマです」

2015年7月、広島県廿日市市の山林に現れた60キロ級のオスグマ(米田氏撮影)
2015年7月、広島県廿日市市の山林に現れた60キロ級のオスグマ(米田氏撮影)

コグマは山から下りてくるのではなく、すでに人間の生活圏に入り込んでいるのだという。

「30年も前から予想されていたことですが、中山間地では過疎高齢化によって駆除の担い手であるハンターの動員が難しくなっています。そのため、クマ出没の通報を受けた自治体や猟友会は、檻にエサを仕掛けてクマをおびき寄せる箱罠を設置します。駆除数が急増した昨年、箱罠に掛かって捕殺されたクマの多くは、母グマでした。

母グマはコグマを守ろうとするので獲物を見つければ自分から近づき、危険性を見定める習性を持っています。そこで檻に閉じ込められ、最終的には駆除される。こうして昨年は全国各地で母グマの捕殺が増えていきました」

では残されたコグマはその後、どうなるのか。

「これはコグマの習性でもあるのですが、母グマが捕殺された現場の周辺……つまり、すぐそばに人家がある人間の生活圏で、母グマが戻ってくるのを待ち続けます。昨年秋に母グマが捕殺されたとすれば、コグマはその周辺に居残り、空き家や別荘や小屋などに“潜伏”しながら、越冬しました」

2018年7月、「十和利山クマ襲撃事件」現場(秋田県鹿角市内)に出没した40キロ級の3歳のオスグマ(米田氏撮影)
2018年7月、「十和利山クマ襲撃事件」現場(秋田県鹿角市内)に出没した40キロ級の3歳のオスグマ(米田氏撮影)

そして春を迎え、外で活動するようになったコグマが各地で目撃されるようになっているのが現在の状況という。

「コグマだからといって甘く見てはいけません。生後1~2年のコグマの体長は50センチ~1メートル弱と大きくはありませんが、その攻撃パターンは人間の足に噛みついてくるケースもあれば、飛び上がって顔に噛みついてくることもあります。

クマは人間を襲う場合、鼻や口をガブガブと噛み、窒息させようとしてくるのが基本。こうした習性はコグマにもあるということです」