頭に噛みつく、爪を立てられる・・・壮絶なクマとの戦い
2023年6月16日午前5時30分ごろ、島根県・邑智郡邑南町宇都井(おおちぐんおおなんちょううづい)での出来事。
「邑南町は山が高いけいね、まだ日が当たっていない時間だったんよ」(高橋さん、以下同)
被害を受けた高橋さん(仮名・78歳)は、つい昨日起きた出来事かのような口ぶりでそう語り始めた。
高橋さんの住む邑南町宇都井は、自然豊かな山々に囲まれた農村地域。田んぼを囲うように民家が建ち並んでおり、牧歌的な雰囲気が漂う。
そんなのどかな場所で凄惨な事件は起きた。
朝5時台はまだ薄暗く、周囲の様子が克明にはわからなかったそうだが、玄関を出てキュウリを獲ろうと畑に向かった高橋さんは、異変に気付く。
「畑のそばにある山の藪でね、コツン、コツンいう音がしたんよ。何の音かな、鳥でもいるんかなと思って藪の前まで行きよったんですが、そしたら急にクマが飛びかかってきよって……。
暗かったからかもしれんけど、藪の中から殺気はなかったし、クマがいるんかなんてわからんかった。1メートルぐらいあったかなあ。小柄だったけど、ものすごい力で抱きついてきて、頭に噛みつこうとしてきた」
クマが立ち上がると、ひるんでいた高橋さんとほぼ同じ目線の高さになったという。そして、鋭い爪が伸びた両手で高橋さんの両腕をホールドし、頭に噛みつこうと牙をちらつかせたそうだ。
一方の高橋さんは、畑を見るだけの用事で外に出たため手ぶらで、クマを相手にするにはあまりにも心許ない状態だった。しかし、不思議とクマから攻撃性は感じなかったという。
「喰ってやるという感じはなくて、威嚇している雰囲気もなく、ただ抱き寄せて噛もうとするだけ。傍から見ていれば、じゃれているように見えたかもしれん。けど力は強かったから、このままではやられるとは思ったね」
高橋さんはクマの手を払うべく、必死に腕の力を振り絞り、拘束から逃れようと試みた。だが奮闘むなしく、クマはなかなか離れず、抵抗する反動で身体にはクマの爪によるひっかき傷が付いていく……。
「抵抗するうちに動きも激しくなってきて、ガーッとクマの左手が自分の右目にきて。もう目がエグれてしまって、一気に視界がぼやけたんよ。あたふたしとるうちに、気が付いたらクマはいなくなっとったわ」
その後、すぐに病院へと向かった高橋さん。10日間入院し、右目の摘出手術を受け、片目の視力を失ってしまったという。なお事故後、自宅付近で2つの罠を設置したが、いずれも成果は出ず、クマの行方は現在もわかっていない。