「理由なき不登校」と追い詰められる

中学生になっても無気力な状態は続き、学校に行けない日が多かった。無理をして登校したのに、嫌がらせをされたこともあるそうだ。

「例えば、クラスの備品の辞書を窓から投げ捨てて、『竹内くんがやった』と数人で先生に言うんです。もちろん、嘘ですよ。でも、私がいくら『やってない』と言っても、多勢に無勢で先生も嘘を信じちゃって、私に取って来させる。すると、また投げるんですよ。で、『竹内くんが投げました』っていうのを何回もくり返されました。

だから、不登校の子が学校に戻るっていうのは、簡単じゃない。みんながみんな、『頑張って学校に来たね』なんて受け入れてくれるわけじゃないんですよ」

竹内さんはこのときも、いじめのことを誰にも言わなかった。登校したときは仲のいい同級生と普通に接していたので、教師や親も不思議がるばかりだった。

「私にとって本当の敵は無気力でした。でも、当時は無気力になる理由が自分でもわからなくて、『理由はない』と言うしかなかった。先生には『理由なき不登校だ』『理由がないなら学校に来い』と追い詰められて。ちょこちょこ行って、そのたびに精神がすり減って、疲れきっちゃったんですね」

写真はイメージ。画像/shutterstock
写真はイメージ。画像/shutterstock

自室にひきこもり昼夜逆転

夏休みに入った瞬間、張りつめていた糸がプチっとキレてしまう。竹内さんは外界の情報をすべてシャットアウトして、自室にひきこもった。

昼間は寝て、夜になったら起きる。家族が寝た後に自分で簡単なご飯を作って食べる以外は、朝までずっとゲームをしていた。新学期になっても、そのまま部屋から出ずに昼夜逆転の生活を続けた。

「ひきこもっている間って、自分の心に悪いモノばっか溜まっていくんです。学校に行かなきゃいけないのに、行ってない。ものすごい自責の念があって、行けない自分を責めたし許せなかったですね。昼間起きていると『みんなは学校に行ってるのに』とか考えちゃうから、ストレスが溜まる。だから、昼夜逆転は、自分の精神を崩壊させないための防衛策だったと思うんですよ」

当時を思い出しながら、丁寧に詳細を語ってくれた竹内さん
当時を思い出しながら、丁寧に詳細を語ってくれた竹内さん

不登校の生徒をサポートする教師がときどき家に来て、「映画を観に行かないか」「おたまじゃくしを取りに行こう」と外に連れ出してくれた。だが、昼夜逆転しているため、そうした熱心な働きかけも、当時は苦痛でしかなかったという。

「外出の予定が決まると昼間に起きていられるように準備するんだけど、1週間くらい前から緊張して、ひどく疲れました。その日が終わると一瞬で昼夜逆転に戻っていましたね」

翌年、新しい校長が赴任してくると、教師の訪問もなくなった。「不登校の生徒は人間のクズだ」と朝礼で話をするような校長だと、人づてに聞いた。