夜の汚い闇の中に差す、一筋の奇跡の光

――実体験を多く書いてきた、というのはおふたりの共通点ですよね。

 『死にたい夜にかぎって』でも書いた車椅子の女性との初体験は、これっておもしろおかしく話していいのかなって迷っていたんです。

でも、信頼できる先輩に話したら「これは書いた方がいいと思う。怒る人もいるかもしれないけど、それ以上に感動する話だと思うから」って言われて書いたんです。おっしゃる通り、そうやって自分の周りのことばかり書いて、それがずっと続いている感じで。

鈴木 私の場合は、男に関しては悪口ばかり書いているけど、基本的に興味があるのは女の子の方。魅力的な女性にすぐ目が行くんです。

無様だったりみじめだったり、でもしたたかでずる賢かったり可愛かったりする、そういう女性が好き。AVの子でもキャバクラの子でも風俗の子でも、私が夜の街で出会った女の子たちはみんなそうだったんです。

私はけっこう厨二病っていうか、大学院に行きながら不良化していた感じだったけど、中卒でずっと夜職で働いているような女の子が、のちのちまで記憶に残る至言を残していて。そういうのがぐっときたんですよね。

新宿区役所の向かいに深夜まで営業している安い喫茶店があって、そこでは、女の子がホストクラブの閉店後にホストを待っていたり、アフターがないから時間を潰していたり、始発待ちしたりしていたんです。

あるときそこで、すごく口汚い言葉で電話している女の子がいて。最初は友達の女の子にホストの悪口か何か言っていたんだけど、「あ、電話かかってきたから一回切る」って、今度はホストと電話して。すごい文句と理不尽な暴言を吐いて、周りも「こわ……」みたいになったんですけど、電話を切った直後に、机の上のゴミをきれいに片付けて、とっちらかっている椅子を丁寧に並べ直して帰っていったんですよ。私にはそれが、なんだか崇高な行いに思えて。

今、SNSに載せる写真はほころびを直せちゃうから、完璧で綺麗な女の子が多いんだけど、私は今言ったような、口汚く罵りながら善行を積んでいく女の子に特別な魅力を感じて、愛していて。そういうものが書きたいなって思っているんです。夜の汚い闇の中に差す、一筋の奇跡の光みたいなものを。

「車椅子の女性との初体験を話していいのか戸惑っていた」「愛しさを持って書いてくれているのが伝わる」根本にあるのは女性への崇拝《爪切男・鈴木涼美対談》_2

 そこにどうしても興味が行くんですね。

鈴木 そう、そういうところに興味が偏っているので、最近また夜の話ばっかり書いています。私は自分の小説にも男がぜんぜん出てこないし、女の子の方に興味があるんだなって自覚していて。

私と爪さんは女性を見る目線は違うにせよ、ちょっと変わった女の子のことを書いているっていう意味では、近いかもしれないですね。