EV購入者はブランドを重視しない

中国のEV普及率は高く、自動車販売シェアの20%ほどを占めている。ヨーロッパが15%、アメリカが8%、日本が2%ほどだ。2023年の中国の自動車販売台数は3000万台を突破した。アメリカの2倍近い巨大マーケットで、EV化が猛烈に進行しているのである。その中国で日産が取り残されたという構図だ。

不思議なのは、アフターサービスや品質において絶対的な信頼性を獲得していた日系メーカーが、いとも簡単に中国のEVメーカーに取って代わられたことだ。これには、消費者意識が大きく影響している。

経営コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニーは中国の自動車に対する消費者の意識調査を行なっている(「マッキンゼー中国自動車消費者インサイト2023年版)。その調査によると、ガソリン車の購入において重視するポイントは「自分が信頼するブランド」で87%を占める。その一方で、EVは「航続距離と充電時間」がトップで56%に及んでいるのだ。

写真/shutterstock
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つまり、EV購入に当たっては、各メーカーが築き上げたブランドの信頼性は決定要因として大きくなく、機能性が重視されているということだ。

こうした背景もあり、中国の電気自動車市場はブランド力で売り切ることができず、各社による値引き合戦となっている。

日産は中国でSUVタイプのEV「アリア」を販売している。このモデルは航続距離が470kmで、90KW急速充電器を使用した場合の充電時間は45分。このモデルの価格を大幅に引き下げて販売しているが、現地での販売価格は400万円ほどだ。世界最大級の中国のEVメーカー、BYD初のSUVモデルである「ATTO3(Yuan Plus)」は、航続距離や充電時間はアリアとほとんど変わらないにもかかわらず、260万円ほどで販売されている。日産はコストパフォーマンスにおいてBYDに大きく水をあけられている。

しかも、日産はカルロス・ゴーン体制下で販売台数を目標に掲げ、過度な値引きを行なって利益率を下げた手痛い過去がある。中国においても、販売台数目標に引っ張られて過去の二の舞になるわけにもいかない。