安価な自動車が普及した後も購入者の満足度は高い
先ほどの消費者意識調査からは目先の販売台数だけではない、深刻な事情も見えてくる。実際、中国のEVオーナーに新車価格と使用コストの満足度を尋ねると、10段階評価で8.5と極めて高いのだ。車両品質も8.2と十分満足している様子がうかがえる。
先ほどガソリン車と電気自動車の、購入の決定要因の違いについて説明したが、ブランドと航続距離・充電時間という固有のニーズを除くと、アフターサービスや車内空間など、他の要因に大きな違いはない。つまり、EVが普及してマーケットが成熟すると、現在のガソリン車と同じくブランド力重視の時代が到来する可能性がある。コストパフォーマンスとブランド力の2つを中国メーカーに取られると、日産のような大衆向けブランドは太刀打ちできなくなる。
ガソリン車と日産ブランドが結びつくことの恐怖
日産はガソリン車でも中国市場で失敗した。主力の「エクストレイル」だ。中国では2021年4月に4代目を発売したが、その年の12月に旧モデルの3代目を再度市場投入している。4代目の販売台数はこれまでの好調ぶりとはうって変わって、急下落した。前年比で7割近い減少に見舞われる月があったほどだ。
3気筒というやや特殊なエンジンで振動が大きいといった理由で、消費者から忌避されたのだ。日産は中国での急速なEV普及の波に乗りつつも、当面はガソリン車が販売の中核を担う。現在でもセダンタイプのガソリン車「シルフィ」は根強い人気があり、引き続き販売攻勢をかけるだろう。しかしこれは諸刃の剣。日産にガソリン車というブランドイメージが定着してしまえば、EVマーケットに入り込む余地を失う。
これは何も日産に限ったことではない。トヨタは中国でも堅調だが、売れているのはハイブリッド車だ。日産の現状は、EVに出遅れている日系メーカーの行く末を暗示しているかのようにさえ思える。
取材・文/不破聡