ホワイトカラーの欺瞞に気がつく
人から小馬鹿にされやすく、尊重されにくい。だがこれほど恵まれた体躯なら、その実力で相手を屈服させることもできただろう。
「力によって相手をねじ伏せるのは理性的な行動ではありませんし、それをしたいとは思いません。おそらく、生育歴とも関連するかもしれません。
父は中卒でマグロ漁船などに乗っており、言語化能力が低いためにすぐに手が出る人でした。見知らぬ人に絡んでいるのを何度も見かけたことがあります。話が合うと感じたことは一度もありません。回数は多くないものの、私も体罰を受けたことがあります。
父はある日、薬物事犯のテレビ報道を見ていて、『俺も昔、麻薬やってたけど、肌に合わなかったな』とさらりと言ったんです。心底軽蔑しました」
荒くれ者の父と距離を取り、熱心に勉学に励むことで佐々木さんは学歴と教養を得た。しかし、いわゆるホワイトカラーの職場をいくつか転々としたのち、落ち着いたのは水商売。本人はその結末を嬉々として「それ以前に比べれば幸せです」と断言する。なぜなのか。
「ホワイトカラーに蔓延っている、”建前文化”が嫌いなんです。ホストクラブをはじめとする夜職は、なかには直情径行の人もいます。でも自分たちが人間の欲望に対して、忠実に生きていることを自覚しています。
翻ってホワイトカラーはさまざまな誤魔化しを用いて、自らさえも欺いていると思うんです。一例ですが、大手チョコレートメーカーは企業イメージこそいいですけれど、その裏には発展途上国で児童労働が起きていたりするわけですよね。しかしそのことを自分たちとは関係ないと本気で思って生きている。それは欺瞞ではないでしょうか」
自身のサラリーマン時代の体験から”建前文化”への嫌悪感が募っていったという佐々木さんは、取材開始当初とは見違えるほど雄弁にこう語る。
「サラリーマン時代には、役員におもねるためだけに存在するような会議がありました。招集した本人が『今日の議題はなににしましょうか?』などとのたまう馬鹿らしい会議です。
私はのちに行われたアンケートで『この会議は意味があると考えますか?』と聞かれたので、迷わず『いいえ』を選択したんです。すると後日呼び出され、『無駄なことをするのがサラリーマンなんだ!』と叱責されました。無駄という自覚があったんですね。
現代のサラリーマンの仕事は資料作成、会議、アポが基本だと思いますが、やっている当人すら思ってもいない『SDGsが〜』とか『ダイバーシティが〜』とか美辞麗句を並べ立てるだけの茶番だと思います」