「夜の歌舞伎町にはさまざまな人を受け入れてくれる度量があります」

佐々木さんがここまであらゆる状況を俯瞰的に見られるようになった背景には、「空気を読めない」と言われ続けた学生時代の読書体験があるのだという。

「かつて、人と足並みの揃わない学生時代はそれなりに辛く、私はさまざまな書籍を読んで今自分の身に起きている事象を説明しようと試みました。そのおかげで、こうして言語化できるようになりました。

活字中毒と自身を評する佐々木さんは、取材が後半へいくにつれ饒舌に
活字中毒と自身を評する佐々木さんは、取材が後半へいくにつれ饒舌に

たとえば昔よく言われた『お前は空気が読めない』という言葉に関しても、一見そういう状況が本当にあるかのようですが、言った側の一方的な評価に過ぎないんですよね。言う側と言われる側の間には明確な権力格差があって、しかもそれはローカルな空間だけで通じる役割にすぎません。

大学時代の部活動でも『一発芸をやれ』と無茶ぶりをしてきて、応じないと私のノリが悪いと批判してくる先輩がいましたが、それも同様の構造になっているわけです。常に一方通行の力関係のなかで、安全地帯にいる人間がそうじゃない人間を”いじって”いるんです。そうしたことが分析できたとき、周囲に合わせない自分を責める必要がなくなって、一気に楽になりました」

最後に夜職にあって、ホワイトカラーにない魅力を聞いた。

「ホワイトカラーは分業制が進んでいて、それゆえに無駄な仕事があるのにそれを誰も指摘しません。自分の仕事がエンドクライアントにどう届くのかが見えづらい構造があります。

しかし夜職の場合、お客様の喜怒哀楽がすべて見えます。たとえそれがネガティブな反応だとしても、むき出しの感情に触れていられるだけで、私は心地よいと感じるんです。

このまま内勤を続けて裏方で成果を上げていくか、それともキャストに転向して”ホストっぽくないホスト”がどれだけ通じるか試してみるか、はたまた資格試験に合格して夜職に詳しい士業となるか――自分自身もとても楽しみです。そして、夜の歌舞伎町にはさまざまな人を受け入れてくれる度量があります。

歌舞伎町という街の持つそうした部分が好きだから、きっと私はこれからも歌舞伎町で生きていくんだと思います」

取材を終えると、佐々木さんは「これから自転車で出勤です」と晴れやかに言った。仕事へ向かうそのまっすぐな背中は大きく、歌舞伎町を目指して迷いなく進みだしていった。

取材を終え、歌舞伎町に向かっていった
取材を終え、歌舞伎町に向かっていった

取材・文・写真/黒島 暁生