カサノバ流「顧客第一主義」と「日本回帰」
そして、いよいよ、カサノバ体制だ。先にも書いた通り、チキンナゲットの問題で、就任当初は暗雲が立ち込めていた。
だがカサノバは、着実に信頼の回復に努めた。日本マクドナルドが発売した公式のビジネス書(『日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営: “スマイル”と共に歩んだ50年』)によれば、彼女が2015年ごろから行った改革は、改めて日本に適合したマクドナルドを作る取り組みのひとつだったという。「日本」という場所で、マクドナルドをもう一度根付かせようとしたのだ。
例えば、カサノバ自らが全国各地を訪れ、そこにいる母親たちに直接ヒアリングを行い「顧客第一」の姿勢を鮮明に打ち出したのもその一つだ。
また、2017年に行われた「マックなのか?マクドなのか?おいしさ対決!」キャンペーンでの出来事がそれを顕著に表している。これは、関東の「マック」と関西の「マクド」、どちらの呼び方が正しいのかを競う、SNS上で行われたキャンペーンだ。結果として関西の「マクド」軍が勝利したのだが、それにちなんでカサノバは公式サイトの代表挨拶を関西弁にしたのだ。このように、ユーモアを交えつつ、日本人に寄り添う姿勢を示した。
こうして見ていくと、原田時代に大きく傾いた「アメリカ化」の振り子を、再び「日本」へと戻したのがカサノバだったといえるかもしれない。顧客の共感を軸に据え、「日本的マクドナルド」の進化形を模索する。そこに、カサノバ流経営の本質があったように思う。
日本マクドナルドの歴史は「日本」と「アメリカ」の間を行き来する歴史でもあった。藤田の「日本化」、原田の「アメリカナイゼーション」、そしてカサノバによる「日本回帰」。各経営者の下で、力点の置き方は大きく変化してきた。
今後、後継者が同社をどのような方向に導いていくのか。その先行きを占う上でも、このような歴史の振り返りは、一つの指標となる。さまざまな時代を乗り越え、半世紀以上にわたって愛され続けてきた日本マクドナルド。その針路は、これからどこへ向かうのか。
文/谷頭和希