ひきこもり支援は“命の宿題”
生き生きと相談に乗っている様子から、やりがいを感じているのはわかるが、自分の失敗や過去をすべてさらけ出すというのは勇気がいるものだ。どうして、そこまで全力で支援を続けているのかと聞くと、大橋さんは即答した。
「私の命の宿題だと思ったからです。私だって、ひきこもりや不登校、発達障害になりたくなかったですよ。でも、なったからには何かの意味がある。なったからには何かやらなければいけない仕事をもらったんだろうなと。だから、命の宿題。僕がもらった宿題はこれなので、一生懸命回答しているんです」
2020年に一般社団法人「生きづらさインクルーシブデザイン工房」を設立して代表理事に。生きづらさを抱えた子を持つ親や支援者などが理事になり、大橋さんが苦手な作業をサポート。居場所を運営したり、合同相談会などイベントを手がけたりして、当事者や支援団体の横のつながりを広げることにも尽力した。
22年には『不登校・ひきこもり・発達障害・LGBTQ+ 生きづらさの生き方ガイド~本人・家族の本音と困りごと別相談先がわかる本』を家族関係心理士・心理カウンセラーの岡本二美代さんとの共著として出版した。
大橋さんが13組の当事者や家族にインタビューをして生の声を紹介。困ったときにどこに相談したらいいのかという情報を網羅して掲載している。
昨年12月から今年1月にかけて講演と合同相談会のイベントを3回連続で主催するなど、超多忙だった大橋さん。助成金の残務処理が終わって落ち着いたら、もう一度取材する約束をしていたのだが、それは叶わなかった。
3回目のイベントを終えた2日後、今年の1月10日に、大橋さんは突然の病で急逝した――。
「頑張って俺も生き抜いてきたよ」
大橋さんは4年前に父親を、1年前に母親をがんで亡くしている。大橋さんは生前、「本当に寂しい」とよくこぼしていた。
「父が亡くなった後、母が泣きながら僕に謝ったことがあるんです。すぐ切れるところがお父さんそっくりで、あなたが怖かった。どう向き合えばいいのかわからなかったって。親は親なりに一生懸命考えてやってくれていたんですね……。そうやって、少し客観的に見れるようになったのは、やっぱり皆さんと出会ったおかげなんです」
自分が変わったことで、親の気持ちも理解することができたのだろう。同行した講演会の最後に、アニメ映画『鬼滅の刃 無限列車編』のワンシーンになぞらえて、両親への深い想いを口にしていた。
登場人物の一人である煉獄杏寿郎が敵との戦いに敗れて亡くなる間際、亡くなった母親の幻影に「俺はやるべきこと 果たすべきことを全うできましたか?」と聞く。母に「立派にできましたよ」とほめてもらい煉獄は安心して旅立つのだが、大橋さんは自分が求めているのも、まさにそれだと強調。そして、真剣な表情で続けた。
「いつかあの世で父ちゃん、母ちゃんに会ったとき、俺は父ちゃん、母ちゃんの子どもでよかったよ。頑張って俺も生き抜いてきたよ。そう胸張っていきたいなと思っています」
自らの言葉通り、今は両親に思う存分甘えて、ほめてもらい、あの人なつこい笑顔を浮かべているのだろうか――。
〈前編はこちら〉(前編)『いじめ、オムツしながらひきこもり、発達障害…自称「生きづらさ5冠王」の43歳男性が、給料泥棒と罵られ30回以上の転職を繰り返しても働きたい理由』
*この原稿はご遺族の許可を得て掲載しております。謹んでご冥福をお祈りいたします。
取材・文/萩原絹代