有資格者は年収1000万円も可能で、
転職市場でも引く手数多だが…

これまでみてきたとおり業務面では過酷なものの、その分給料は高い。平均年収でも約445万円と日本全体の平均年収(414万円 ※2023年度doda)よりもやや高く、更に大手ゼネコンでは1000万円を超える人もいるという。

「施工管理の年収は、夜間や休日の手当、とくに残業手当が大きく寄与しています。また、一定規模以上の現場には施工管理の資格保有者を配置するという法律(監理技術者)があるため、転職市場では資格保有者が極めて優遇されます。年功序列の意識も薄く、若くても技術があれば稼げますし、年齢が上がっても給与も下がりにくい傾向があります。

資格の難易度は高い分、年収1000万円越えも可能な世界ですよ。ただし…」これまでは時間外労働の手当により高収入を確保できていたが、2024年から実施される残業規制で年収が下がる可能性があるというのだ。

さらに、4月1日以降に懸念されているのが正確な残業時間の申請ができない状況、つまり隠れ残業の横行だ。

だが髙木氏は、「時間外労働の規制によって一時的に隠れ残業を行なう企業が増えるが、徐々に効率化を推進する企業によって淘汰される」と語る。

「時間外労働の上限規制により、建設業界でも厚生労働省の調査には出てこない形で残業を強いる企業が出現する可能性があります。たとえば、会社用ではなく私用のパソコンで作業をさせるといったカタチで。

以前と同じ労働量でも、残業代がもらえないケースも考えられます。ただ、有資格者の施工管理の需要は高いため、そのような企業からはすぐに離れていくでしょう。

また、施工管理が不在となると、有資格者を法令上配置しなくてはいけない工事ができなくなるため、大型の発注を受けられなくなってしまうのです。つまり中小企業では施工管理の退職が倒産に繋がります」

年収1000万の裏には毎月残業100時間越え?「時間外労働の上限規制」で工事現場に欠かせないセコカンの未来は…【建設業の2024年問題】_3
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懸念される中小企業の倒産

工事一件の請負金額が4000万円以上の建設工事では、施工管理の有資格者の配置が必須となっている。大企業は関連会社などから人材を派遣することで対処できるが、中小企業にとっては容易なことではない。

このように、時間外労働の上限規制が建設業界に与えるインパクトは大きい。

「いっぽうで、時間外労働の規制に対応しながら業務の効率化を進めた企業に人が集まるため、業界全体で徐々に業務環境が改善していくと考えられます」

髙木氏が指摘するように、業界全体では効率化により状況を改善する取り組みが進んでいる。最近では、建築機械の遠隔操作によって現場間の移動を排除する試みや、事務作業のアウトソーシングなどの対策を推進する企業が増えているのだ。

過酷な残業が常態化していた施工管理だが、今後はワークライフバランスが充実した働き方を実現する動きが強まりそうだ。

AIの出現により、ホワイトカラーのデスクワークがAIに取って代わられると囁かれる昨今では、建築業の価値が相対的に見直されている。今年1月の能登半島地震の際に報道された、緊急復旧のために不眠不休で働く姿からは、建築業、並びに施工管理という職業が果たす社会的意義の高さも感じられた。

2024年に施行される時間外労働の上限規制によって、施工管理の仕事がどのように変革していくか、今後も注視していきたい。

文・取材/福永太郎 
取材協力/髙木健次 クラフトバンク総研(企業内研究所)所長 /認定事業再生士(CTP)
写真/shutterstock