「現場を知らない人間が決めたこと」
今回の受刑者への「さん付け」について「言語道断だ」と一刀両断するのは、関東地方の刑務所に3年ほど収監され、昨年春に出所したAさんだ。
「刑務所っていうのは、我慢できずに犯罪を犯してしまった受刑者が、我慢を覚えて自分を正す場所だと思っています。だからある程度、先生(受刑者は刑務官のことを先生と呼ぶ)の威厳が保たれていなければいけない。それなのに『さん付け』なんて……。
ベテランの先生なんかは『ふざけんじゃねぇ』と思ってるはずだし、私の保護監察官も『ありえない』と言ってました。現場を知らない人間の決めたことだと思います」
また、Aさんは今後起こるであろう「ある問題」について危惧する。
「受刑者は刑務所内の意見箱に刑務官へのクレームを投書することができるんですが、『あの刑務官が、さん付けしなかった』なんて投書する嫌がらせも増えるんじゃないですか。
意見箱で名前が上がった刑務官は各刑事施設視察委員会の審議対象になるから、刑務官は今以上に受刑者に気を遣わなくちゃいけなくなるでしょうね。
刑務官の受刑者への暴言や暴行を対策するならば、刑務所内の監視カメラなどの設置と刑務官の教育を徹底すべきではないですか」
一部の刑務官の間では「そもそも刑務官の人材育成への手抜かりが問題。そのあり方を見直すべき」との声もある。はたして「さん付け」義務化で問題は解消されるのか。
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班