緊張があることこそ最高の経験

じゃあ、なぜ「楽しい」と思ってこなかったのか?

それは、僕が23歳の時から20年以上お仕事をさせていただいたSMAPと、そのマネジメントをされていた飯島さんの存在が大きい。

僕がSMAPの皆さんとお仕事をさせていただくようになってから、グループはただただ巨大になっていく。その仕事をしていく上で振り落とされたくないと思って必死でした。

目の前の仕事を全力でこなしていくのに一生懸命。与えられる仕事は、自分がいつも着ている服よりちょっと大きいサイズという感じで。その服を「いつも着てますよ」風の顔して着る感じ。本当はその仕事を与えられて、自分のサイズに合ってないのに、合ってるフリしてやって、結果を出していくしかなかった。

そして20代のうちから、自分がおもしろいと思ったものを世の中に発信していくことが出来るのは「嬉しい」ことではあるのですが、その場合は責任を問われます。

だから楽しんでいる時間はなく、常に「緊張していた」のだと思います。

マネジメントの飯島さんは、絶対に妥協をしません。飯島さんは、若くておもしろいと思う人をピックアップするのがとてもうまくて、チャンスを与えられた方は嬉しいし、頑張る。

結果、成功して、その人がその分野でトップになっていくことが多い。

売れてる人を起用するのは簡単ですが、若手の時代から育てるってとても難しいですよね。

さらに飯島さんがすごいのは、自分と一緒にやってきた人がどれだけ売れようが関係ない。

自分の仕事で手を抜いたりしたらすぐに見抜くし、めちゃくちゃ厳しく注意されます。

僕も沢山のチャンスを頂きましたが、たまに、かなり厳しいオーダーもされましたし、怒られてもきました。

だから緊張感をもって頑張れたのだと思います。

そして、今まで絶対に作ることの出来なかったものを作るチャンスや環境も用意してくれました。どれだけ経験を積んでも自分の経験値では計算出来ない仕事がたまにやってくる。それに対して結果を出したいので、若手のような頃の気持ちで頑張れる。

ずっとそのような気持ちでやってきたから「楽しくなかった」のだと思いますが、振り返ってみると、それって最高の経験が出来たなと思っています。

SMAPが解散して、それからもありがたいことに、色々な仕事のチャンスを頂けています。2024年配信予定のNetflixドラマ『極悪女王』では、企画・脚本・プロデュースというありがたすぎるポジションを頂きました。これは配信されたら、絶対グローバル1位を取るつもりでいます。

とあるアーティストの伝記をもとにした映画も作っています。これがうまくいったら、日本の映画でありそうでなかった新たなジャンルを作れるなと思っています。

こんな仕事をやらせていただいてるし、全力で頑張っています。

ですが、なんでしょう。

20年以上とてつもない緊張感でやっていた時のスイッチが入り切らない。

僕は若手の頃から、まず目の前の人に褒められたいと思ってやってきました。そしてSMAPと仕事をしてからは20年以上、メンバーや飯島さんにおもしろいやつだと思われ続けたいなと思ってやってきました。

だけど、僕が今、仕事をしている状況は、以前のように大きな緊張感を持って、この人にいらないと思われたくない! この人にめちゃくちゃ褒められたい! ということがかなり減ってしまっている。

エクスタシーを感じる状況が減っていて、仮に大きな結果が出たとしてもそれはあくまでも結果であって、自分は緊張感ある過程の中でそのエクスタシーを生み出していたのだなと気づきました。

だからきっとそれが僕のビジネスセックスレスなのでしょう。

自分を求めてくれる人がいたとしても、きっとこれは「終わるべきサイン」なのだと思います。

おもしろいもので、「辞める」と決めたら、久々に経験値にないおもしろい仕事のオファーが来ました。

辞めると決めるとそれが来る。だからといって、これで再び続けようとは思わない。

きっとそれは「辞める」と決めた自分への仕事の神様からのプレゼントなのだから。

仕事の辞め方
鈴木おさむ
「SMAPとの仕事は最高の経験」も「これまで仕事で楽しかったって思ったことは一度もない」鈴木おさむが引退を決意した“ビジネスセックスレス”の苦悩_04
2024年1月24日
1650円(税込)
A5判/216ページ
発行:幻冬舎
ISBN:978-4-344-04206-3
マンネリを捨てることで、人生を取り戻す
32年間やった放送作家を辞めます。

○40代からソフト老害
○ビジネスセックスレスは辞めるサイン
○あなたにも代わりはいる
○手放すからこそ入ってくる

ワクワクしない仕事をダラダラ続けるほど、人生は長くない!
「仕事を辞める」と想像することで、働く意味、人生の目的、幸せのカタチが見えてくる。
人生100年時代に、毎日をキラキラ生き続けるための方法
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