「中高年、ほとんどが特定の大学の文系卒」という多様性がないメンバーが派閥や序列をつくり、自尊心をめぐって対立している日本企業の問題点とは_1
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人間関係を選択する働き方へ

リベラルな社会では、生まれてきたことは別として、ものごころついたあとは、人生のあらゆることを個人が主体的に選択すべきだとされる。

このようにして、職業選択も、誰と結婚するかも、子どもを産むか産まないかも、あるいはヨーロッパの一部の国ではいつ死ぬかも本人の自由になった。

しかしそれでも、世の中には選択できないものがある。養子でもないかぎり、自分の親や子ども、きょうだいを選ぶことはできない。

そうなると、人生におけるこの重大な選択に失敗したと感じるひとたちが現われる。この不満から、「親ガチャ」や「毒親」という言葉が生まれたのだろう。

家族以外にも、選択できない人間関係はたくさんある。就学年齢に達すると、子どもたちは地域のなかからランダムに選ばれた同世代の子どもたちと同じクラスになり、友だち関係をつくるよう「強制」される。

会社の人間関係も、学校と同様に、個人が選択することはできない。会社には“パワハラする上司”“足を引っ張る同僚”“仕事ができないくせにわがままな部下”がいるが、それがどれほど苦痛でも、ほとんどの場合、社員は会社の人間関係を選択できない。

先進国では飢餓のような極端な貧困はなくなり、戦争や内乱を心配する必要もなくなった。その結果、現代社会ではほとんどの困難が人間関係からもたらされるようになった。

だとしたら、根本的な解決策はひとつしかない。人間関係を自分で選択できるようになることだ。

アメリカの作家で、日本の「Manga」の熱烈なファンとしても知られるダニエル・ピンク(クリントン政権下でアル・ゴア副大統領のスピーチライターでもあった)は、早くも2001年にフリーエージェント社会の到来を宣言した[*1]。

ひとびとが自分らしく生きようとすれば、会社に所属する窮屈な働き方ではなく、リスクをとってでも「フリー(自由)」になりたがるはずだというのだが、この予言は20年後のいま、現実のものになりつつある。

*1 ダニエル・ピンク『フリーエージェント社会の到来 組織に雇われない新しい働き方』池村千秋訳、ダイヤモンド社

アメリカのZ世代(30代以下の若者層)のあいだで、「静かな退職(Quiet quitting)」が広がっているという。

「実際に仕事を辞めるわけではなく、必要最低限の業務はこなすものの、仕事への熱意が低く会社への帰属意識も薄い」ことで、仕事は“生計のための必要悪”で、定時に帰宅し、休日出勤はせず、有給休暇はすべて取得して、余暇の時間を「自分らしく」生きることに使う働き方をいうようだ。

だが、人的資本が成功にとって大きな影響力をもつ知識社会(メリトクラシー)では、「静かな退職」は敗者の戦略になる可能性が高い。余暇を楽しむのは大切だろうが、その間もライバルは人的資本を大きくしているのだ。

それに対して、いまシリコンバレーなどで急速に広がっているのが、いつ、どこで、誰と、どんな仕事をするのかを選択できる働き方だ。これは「ギグワーク」と呼ばれる。