非公式で出回った授賞式でのスピーチ
――映画大学に通いながら、仕事として映画の道へは進もうとは思わなかった?
映画大学は、映画を学ぶには申し分ない環境でした。知りたいことはもちろん、好奇心があれば、それ以外の情報もめっちゃ入ってくる。ただ、そのせいで当時の映画業界のクソな部分とかもいっぱい知ったので、自分は関わりたくないなって。リスペクトできるフィルムメーカーにも出会ったので、映画は任せた、って感じですね。
音楽か小説なら、勝負する気にもなりますけど、やっぱり映画は個人の力だけではどうにもならないし、予算や他人の仕事に配慮して完全に納得できるもの作れないとか謎。現場レベルが頑張ってても業界がクソ。日本アカデミー賞とかカス。日本だけじゃないな、アメリカのアカデミー賞もファック。作品の質とかじゃなく業界政治と販促のただのでかいオフ会。もう自分の中で映画の夢は崩れました。でも映画化はお願いします。
――とはいえ、文芸の世界、いわゆる文壇にもクソなことはあるし、カスなやつはいますよ。
でも結局は個人事業主じゃないですか。文章を書くのに、組織とかコミュニティとか関係ない。関係あるって言う人もいるかもしれないですけど、自分は最初から何の責任もとるつもりないので、自分でケツ拭けないことはしないです。しかも今は集英社がバックにいる(笑)。少年ジャンプの「友情・努力・勝利」ってやばくないですか? 真理ですもん。
――すばる文学賞の授賞式でのスピーチ、衣装も含めて最高でした。
恐縮です。最初ゴリゴリのジャージを用意してたんですけど、かおりんにあざといって言われてやめました。それで、かおりんと出会った頃によく着てた格好をイメージして、それなら安心できるかなって。出会ってすぐって、相手にどう見られるか気にするじゃないですか。なので、昔の自分に助けてもらった感じです。授賞式に呼んだ友だちも、ホストやってたやつはスーツでしたけど、ほかはみんな好きなカッコでした。
――受賞のスピーチがSNSで出回ってましたね。
受賞式は録音とか録画とか、撮影もしちゃいけないんですけど、出回っちゃいました。あれは友だちが勝手に録音して、さらにその友だちが「これネットに上げたら絶対バズる」とか言って、ほんとにバズっちゃいました。自分、すごいあがり症なので、それで音楽もライブとかあきらめたんですけど、詩を読み上げるならできるなと思って、ああいう形になりました。
《後編》へつづく
《後編》「マスメディアはゴミ、俺が片づけてやります」。“俺なりの夏目漱石『坊ちゃん』”を書いて、すばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人のパンチライン
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/井上たろう