《前編》

ディテールは突き詰めるけど、善悪は描かない

――受賞作『みどりいせき』の主題は、どのように考えていったのでしょうか。

大田(以下、同) 結果どうなったかは別として、性差を超えた人間のつながりをテーマにしたいと思って書き始めました。性欲に振り回されて男が女への接し方を変えたり、逆に、女が男だからって接し方を変えるのって、防衛かもだけど単純に人間関係の半分損してる。なので、損してない関係性を描きたかった。あとは、大人に抑圧されている子どもたちが暴れ回るような。子どもじゃないけど、夏目漱石の『坊っちゃん』ってだいたいそういう話じゃないですか。なので、『みどりいせき』は俺なりの『坊っちゃん』です。夏目漱石の神経症もウィードがあればよくなったかもしれない。

――登場人物の高校生たちがプッシャーを生業にしているのは?

子どもが大人から離れて好き勝手やるには、まず経済的に自立して、精神的にも自分たちのルールに則って生きていくことが大事、だから稼ぐ手段は必要だよなって考えたときに、Pならネタ手元にあっても自然だし。それでサイバーヒッピーってクルーに取材をして、たくさん話を聞かせてもらって。ディテールは突き詰めるけど、善悪は描いてないです。

――その“ディテール”は、どう取材したのですか?

たとえば完全合法でLSDと似た化学式のネタがあって、それをサイバーヒッピーのやつに摂取してもらって、普通にくつろいでいる様子を横で見せてもらったり実況してもらったり。小説に出てくる高校生は一軒家をヤサにしてますけど、そいつらも一軒家に何人かで住んでいたので、Discord混ぜてもらってチェックしたり、自分もヤサにお邪魔したり。やっぱり取材は大事です。想像で書いてしまうと、偏見も助長されるし、ちゃんと実相を描くことが、社会に光を当てる方法として有効だと思って。

「マスメディアはゴミ、俺が片づけてやります」。“俺なりの夏目漱石『坊ちゃん』”を書いて、すばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人のパンチライン《後編》_1
作家の大田ステファニー歓人さん
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――作中で、警察のことを「迷惑で不必要」と描写するシーンがありますが、これは舐達麻の「FLOATIN'」のリリックから?

お好きに解釈してください! でも、もし女子高生が手押ししながら舐達麻を聴いてたらおもろいですね。10代に限らず自分含めクソに中指立てるリリックから力をもらっている人めっちゃいると思います。HIP HOPだけじゃなく、音楽は力です。

――Jane HandcockやBrittany Howardの曲を聴くシーンもありました。

Brittany Howardのあの曲は、この小説の世界まんまだなと思って書きました。読みながら1回聴いてみてほしいです。村上龍の小説でTHE ROLLING STONESを聴いた人とかたくさんいると思うので、そういうのはやりたいです。