S区はクレームのパレード

――今はごみ収集のお仕事をされているんですよね。今後、専業作家になるつもりは?

ごみ収集とかだるいし疲れるので、専業とか関係なく、できれば仕事は辞めたいですよ。腰もまじで限界だし。でも、今までは作品を受け取るだけの立場だったので、こいつ金に目がくらんでクソみてえな作品ばっか出しやがって、とか普通に思ってたわけで。

いざ自分が文章を書くことでお金をもらえるようになってくると、ごみ収集の仕事に対する考え方も変わってきました。ほかに収入があれば、作家として魂を売らずに済むし、体さえ壊さなければ肉体労働は朝から体を動かして、健康的で、ストレスも発散できて、夕方前には終わって、わりと給料もよくて、街もきれいになって、もう言うことなくないですか?

「パワハラ、モラハラ、ブラック、搾取、映画業界マジ意味わかんない。小説はあんまり儲からないかもしれないけど一人でやってるから自分でケツ拭けないことはしないです」ごみ清掃員からすばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人《前編》_4

――立派な仕事ですよ。

やるからには、誇りを持ってます。でも住民からクレームも多いんですよね。口の利き方が悪いとかって。でも間違ったキレ方は絶対してないんで。ごみを出す時間が遅かったり、分別ができてないやつに注意してるだけ。ごみ収集って、そもそも別に街を掃除する仕事じゃなくて、ルール通りに出されたごみを回収することが仕事なので。何でもかんでも持っていくわけじゃない。しかも、S区民はおごってるんですよ。ごみ収集もそうだし、生活インフラを見えないものとして軽く扱ってくる。だからうちは無理やり視界に飛び込んでやる。ルールを破るやつには、こっちもルール外のやり方で接するだけ。タメ口で言ってくるやつには、タメ口で返します。みんなすぐクビ切られますけど。

――出されたごみを見ると、地域や住民の特性がわかりますよね。

S区のごみを見てると、捨てるために買ってんのかよ、って思いますね。食わないならメシも作るなよ。一緒に組んでるドライバーは長くごみ収集の仕事をやっていて、いろんな地域を見てきた人なんですけど、所得が低くて治安も悪いと言われている下町のほうが、ごみはちゃんと出すって言ってました。クレームとかもこないって。それに比べて、S区はクレームのパレードですよ。見た目きれいでプライド高い。てめえのゴミ拾ってんのに鼻つまむな。なめやがって。