小説は一人でやるから純度を保てる

――吉祥寺で育ったということですが、文化的にはどういう環境だったのでしょう。

友だちの間では、文化は全部、自分が持ち込んでました。教えてもらったのは、下手だけどスケボーくらい。学校に行ってなかったので、そのぶんライブハウスとかレコード屋をまわって、ネットからも情報を仕入れて。それで友だちのWALKMANを回収して、おすすめの曲を入れまくったり。話せる友だちが欲しくて(笑)。

音楽だけじゃなく、映画を観てもらったり、漫画も貸しつけたりとか。今こうやって小説で世に出た感じになってますけど、ベースも弾いてたし、ギターで曲作ったり、歌ってるバンドもあったし、映画の大学にも行ってたし、自分でもいろいろやってました。

「パワハラ、モラハラ、ブラック、搾取、映画業界マジ意味わかんない。小説はあんまり儲からないかもしれないけど一人でやってるから自分でケツ拭けないことはしないです」ごみ清掃員からすばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人《前編》_3

――音楽や映画と比べて、小説が一番フィットした?

いや、全部フィットはしてるんです。ただ、本気でやるってなったときに、元手もかからないでフットワーク軽くやれるのは文章を書くことじゃないですか。めっちゃ音楽もやりたいんですけど、本当に満足できるものを作るとなったら、環境を整えるのにすごいお金もかかるので、今はちょっとしんどい。映画なんてもっと金も人も必要だし。しかも映画業界になんて入ったら、パワハラ、モラハラ、ブラック、搾取、マジ意味わかんない。現場入ってる友だちからは最近、徐々によくなってるって聞きますけどね。

―― 一人で小説を書いているぶんには、そのへんの心配はない、と。

おもしろがってもらいたいのと同時に、芸術を作りたい気持ちもあるんです。芸術活動の中では、小説はあんまり儲からないかもしれないけど、一人でやってるからクオリティとか純度は保てる。小説家でもセルアウトしてるやつはいますけど、自分はまだそのレベルじゃない。金以外の、ほかのもので満たすことができているので、今は自分が読みたいもの、書きたいものを書くしかない。