『光る君へ』で描かれる主題とは?

現実と物語、どちらが力を持つのか。

その問いはよりメタなレベルでも仕掛けられている。

それがまひろが小鳥を逃がしてしまうシーンだ。『源氏物語』の有名なシーンに次のようなものがある。

「子雀を犬君が逃がしてしまったの。伏籠の中に閉じ込めておいたのに」と、とても残念そうな様子だ。

(原文)雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠(ふせご)のうちに籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。

『源氏物語』「若紫」

これは、光源氏が生涯を通して最も愛する女性である紫上(若紫)と出会うシーンである。
 

土佐光起『源氏物語画帖』より「若紫」
土佐光起『源氏物語画帖』より「若紫」
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いろいろと状況は違うが、まひろと三郎という主人公たちの運命の出会いに、雀の子供を逃すシーンを持ってくるのは、なんともにくい取り合わせではないか。

そして妄想を広げるなら、後年のまひろが『源氏物語』を書く際に、このことを思い出して執筆するとは考えられないだろうか。

その時、物語(虚構)は現実を苗床としながらも、物語(虚構)としての最高の強度を持ち、やがて現実を超越する。

まひろがどのように現実と向き合いながら、最高の虚構を作り上げるに至るのか、今から楽しみでならない。


【参考文献】
・山本淳子『源氏物語の時代』朝日新聞出版、2007年
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』講談社、2023年
・増田繁夫『評伝紫式部』和泉書院、2014年

文/渡辺祐真(スケザネ)

みんなで読む源氏物語
渡辺祐真(編)
2023年12月19日
1122円(税込)
新書判/280ページ
ISBN:978-4-15-340018-4
みんなで読めばこわくない。
源氏はこんなに新しい!

国文学者や日本語学者、歌人に能楽師、芸人、物理学者、英→日の「戻し訳」や最新の現代語訳を手がけた作家、翻訳家まで、『源氏』に通じ愛する面々が多方面から集結。1000年以上にわたりこの作品が読み継がれる理由に現代的な観点から迫る。編者は著書『物語のカギ』などで話題の書評家・渡辺祐真(スケザネ)さん。
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