『光る君へ』で描かれる主題とは?
現実と物語、どちらが力を持つのか。
その問いはよりメタなレベルでも仕掛けられている。
それがまひろが小鳥を逃がしてしまうシーンだ。『源氏物語』の有名なシーンに次のようなものがある。
「子雀を犬君が逃がしてしまったの。伏籠の中に閉じ込めておいたのに」と、とても残念そうな様子だ。
(原文)雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠(ふせご)のうちに籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。
『源氏物語』「若紫」
これは、光源氏が生涯を通して最も愛する女性である紫上(若紫)と出会うシーンである。
いろいろと状況は違うが、まひろと三郎という主人公たちの運命の出会いに、雀の子供を逃すシーンを持ってくるのは、なんともにくい取り合わせではないか。
そして妄想を広げるなら、後年のまひろが『源氏物語』を書く際に、このことを思い出して執筆するとは考えられないだろうか。
その時、物語(虚構)は現実を苗床としながらも、物語(虚構)としての最高の強度を持ち、やがて現実を超越する。
まひろがどのように現実と向き合いながら、最高の虚構を作り上げるに至るのか、今から楽しみでならない。
【参考文献】
・山本淳子『源氏物語の時代』朝日新聞出版、2007年
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』講談社、2023年
・増田繁夫『評伝紫式部』和泉書院、2014年
文/渡辺祐真(スケザネ)