破壊的イノベーションの象徴的な存在だったが…

プロダクト事業が弱含んでいる主要因は、MacとiPadの不調だ。品質が向上したことでパソコンなどのハードは製品ライフサイクルが長くなっているうえ、インフレが進行して高額製品はユーザーの間で買い控えが広がっている。

※Financial Dataより(筆者作成)
Financial Dataより(筆者作成)

しかし、アップルの売上高の半分はiPhoneが占めている。このカテゴリの売上高を伸ばせないことが、アップル最大の課題であるのは間違いない。

企業におけるイノベーション研究における第一人者、クレイトン・クリステンセンの世界的名著『イノベーションのジレンマ』で、クリステンセンはイノベーションを「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2つに分けた。大企業は破壊的イノベーションを軽視すると説明する。

iPhoneは破壊的イノベーションの象徴的な製品だ。ノキアとブラックベリーの高性能携帯電話やソニーのウォークマン、キヤノンやニコンの低価格なデジタルカメラを市場から一掃し、それらの機能をポケットに収まる端末1つに集約した。

クリステンセンは、破壊的イノベーションを起こした後、企業は既存顧客に主眼を置き、製品価値を高めることに注力すると説明する。

コダックはデジタルカメラを世界で初めて開発したにも関わらず、フィルムカメラの主力事業から転換することができずに淘汰されたのはよく知られている。アップルもその轍を踏んでいるように見える。

その象徴的な出来事が有機ELの採用だ。アップルは広範なサプライチェーンを構築し、同一の部品を複数社から調達するマルチベンダー方式をとってきた。これは供給体制を安定させることと、アップルの価格交渉力を強くするという2つの意味がある。

アップルはiPhoneという強力なブランドを構築して消費者を魅了し、世界同時販売で市場に大量供給、価格交渉力を駆使して低価格で製品を作り出すというビジネスを展開していた。まさに持続的イノベーションの理想形ともいえるビジネスモデルである。

しかし、このモデルは密かに転換点を向かえることになった。それがサムスンただ1社から提供されることになった有機ELだ。