自分ではたどり着けなかった、初めての仕事
山田さんは最近、掃除の仕事を始めた。18歳から33年間ひきこもっていた山田さんが外で働くことになったのは「たまたま」だ。
YouTubeで発達障害者の動画を見ていたのと同じころ、不登校・ひきこもりの支援団体が主催するゲーム会に行き始めた。月1回集まって、他愛もない話をしながらボードゲームを楽しむ会だ。
あるとき、支援団体代表の女性から「仕事があるんだけど、やってみない?」と声をかけられた。
その女性が知り合いの不動産屋から「アパートの共用部分を掃除する仕事をひきこもりの人にお願いできないか」というメールを受け取ったとき、「たまたま」隣の席に座っていたのが山田さんだった。「たぶん断られるだろうな」と思いながら軽い気持ちで山田さんに聞いてみたのだという。
「いいですよ」
山田さんは即答した。自由に使えるお金がほしかったこともあるが、実家はアパートを所有しており、将来役に立つかもしれないと思ったのだという。話はとんとん拍子に進み、山田さんは生まれて初めて履歴書を書いて、面接に臨んだ。代表の女性も一緒に来てくれたので、心強かったという。
「私にとって、普通に働いている人は、もう別世界の人ですからね。緊張しましたよ。でも、アパートの住人が出入りする朝晩を避ければいつ行ってもいいと、ていねいに説明していただけたのでよかったです。そんな自分の好きな時間に行けるようないい仕事、自分で探してもたどり着けなかったと思います」
掃除自体は30分~1時間もあれば終わる。月に2回で1回2,000円(交通費込み)と条件も悪くない。仕事中にお茶などを飲むのはいいが、座ってパンを食べるのはダメなど、禁止事項も詳しく書いてくれた。
「初めてお金を稼ぐのは大変だった?」と聞くと、山田さんはしばらく考えて、意外な答えを口にした。
「掃除が終わったら、スマホでアパートの写真を撮ってショートメールに添付して送ってくださいと言われて、戸惑ってしまって……。メールする友だちもいないから、ショートメールのやり方もわからないし、相手の番号を連絡帳に入れることもできなくて、すごい迷惑かけちゃったんです。教えてもらって今はできるようになりましたけど」
山田さんは「迷惑をかけた」としきりに恐縮する。社会経験が少ないだけで、気遣いもできるし、もともと几帳面なのだろう。
「目に見えるゴミを掃除すればいい」と言われていたのだが、階段下にたまった砂まで時間をかけてきれいに取り除いた。ていねいな仕事ぶりが評価されて、担当するアパートは2か所に増えたそうだ。