荒れる日本海と厳しく美しい東尋坊。
お土産屋のおばちゃんの陽気さにほっこり
夜が明けても、大荒れの天気は変わらない。
海沿いの国道305号線、通称・漁火街道を北上する間の雨と風は激しく、左手に見える日本海の海岸には、荒い高波が打ちつけていた。
東尋坊の駐車場に到着したのは午前8時半。その頃になるとようやく、雨は小降りになっていた。
初冬の平日、朝早く、厚い雲、暗い空、冷たい雨、荒れる日本海……。
そうしたシチュエーションが揃っていたからか、日本有数の景勝地でありながらどこか寂しげな佇まいを見せる東尋坊の、ほかに誰もいない駐車場で、僕はちょっと気が滅入るのを感じた。
これ以上にお気楽なことはない、男一匹車中泊旅の最中なのに。
でも駐車場を提供しているお土産屋のおばちゃんが、僕の姿を見るなり「あらま、早いね! 一番乗り〜」と陽気な声で挨拶してくれたので、気分は晴れた。
東尋坊に向かおうとすると、「雨はもう止むから、傘、置いてったら。飛ばされちゃいますよ。危ない危ない」とアドバイスをくれた。
それに従って手ぶらで向かった東尋坊は、想像を超える凄まじい絶景だった。
日本海の荒波に削られた断崖絶壁が、1kmにわたって連なる“日本海の奇勝”東尋坊。
五〜六角形の火山岩が柱状に聳り立つダイナミックな自然の造形「柱状節理」は、約1300万年前にできたのだそうだ。
今日は海が荒れているので、東尋坊は一際厳しく、そして美しい姿を見せていた。
断崖絶壁を海側から見られる観光船は欠航。散策路を歩いていても、吹っ飛ばされそうなほどの強風で恐ろしかった。
今日みたいな日に、ここから海に落っこちたら一巻の終わりだな……と考えていたら背筋がゾクゾクしてきたので、一通りの見学を終えてそそくさとお土産屋さんに戻る。
すると、「はいー、お帰りなさい。寒かったでしょう! 温まっていってください。ゆっくり見てってね」と、再びおばちゃんの陽気な声に迎えられ、ほっとした。
そういうことにあまり触れるのもなんだけど、いまだに自殺企図者の来訪が後を絶たないという東尋坊。
だが早まる前に少しでも、こういう土地の人の温もりに触れ、思いとどまってくれたらいいのにと考えざるを得なかった。
車中泊旅は“行き当たりばったり”を信条としているので、東尋坊のお土産を買い込んで車に戻った僕は、「次はどこに行こうかな」と思案する。
そして、娘の学校の友達の親御さん、つまりパパ&ママ友から最近教えてもらった、福井市内にある評判の眼鏡屋さんのことを思い出し、そこへ向かうことにした。