検察が今回の事件で本腰を入れる理由

森本氏は東京地検特捜部長時代に元衆院議員の秋本司氏を逮捕したカジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件や、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の特別背任事件、元法務大臣の河井克行氏と妻の案里氏を逮捕した公職選挙法違反事件など、数々の事件を手掛けてきた敏腕検察官だ。政府関係者も「彼だったら今回の問題について徹底的に搾り上げようとしてもおかしくない」と声をひそめる。

森本氏以外にも、この事件にはエース級の検察官が投入されており、捜査にはかなり気合が入っているといわれる。その背景には、検察が安倍政権下で権威を脅かされてきた過去を払拭し、名誉を挽回するという意図もあるようだ。

安倍政権における検察にまつわる問題と言えば、「黒川事件」が記憶に新しい。2020年、安倍政権は当時、東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年延長を閣議決定したが、これは官邸と近い黒川氏を検事総長に就けるためではないかと批判を受けた。

そもそも、検察官は強大な捜査権を有していることから、政治的な介入を排除して独立性を確保するため、政府が可否を判断する定年延長は適用されないとされている。そのため、黒川氏の定年延長との整合性を問われた当時の森まさこ法務大臣は答弁を二転三転させることとなった。

高木毅国対委員長(高木氏Facebookより)
高木毅国対委員長(高木氏Facebookより)
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最後は黒川氏が新聞記者と賭けマージャンをしていたことを週刊文春がスクープし、定年延長どころか、黒川氏は検事長を辞任することとなったわけだが、このことが検察の権威を大きく傷つけたのは言うまでもない。

このような経緯や、また収支報告書不記載の金額が突出していることもあり、検察の狙いは安倍派に定められているという。安倍氏が存命のころは自民党最大派閥として存在感を発揮していた安倍派も、今は次のリーダーを見つけられず集団指導体制が続き、政治的な力が弱まっていて切り込みやすいという側面もあるようだ。

実際、安倍派のリーダーの一角である高木毅国対委員長が検察から任意の事情聴取の要請を受けているという情報も永田町では出回っている。

自民党派閥の政治資金問題は疑獄事件に発展することとなるのか。裏金作りに利用されていたのはパーティー券収入のキックバックだが、「キックバック」という言葉は、チェーンソーを使用した際に使用者に向かって刃が跳ね返る、極めて危険な現象の名称でもある。

遵法精神をないがしろにし、都合よく政治資金を記録から葬り去ってきたことへの、あるいは、検察の人事に不当に介入しようとしてしまったことへのキックバックが、近く自民党を襲うことになるかもしれない。

取材・文/宮原健太