「クイーンはもう過去のバンド」という烙印を払拭するのに最高の舞台
18時40分頃、当時人気の絶頂にいたマーク・ノップラー率いるダイアー・ストレイツに続いて登場したのがクイーンだった。
1曲目を飾ったのは、イギリスで史上最も売れたシングルとも言われるクイーン最大のヒット曲『ボヘミアン・ラプソディ』。
普段のコンサートでは必ずと言っていいほど終盤に歌われるこの曲で幕を開けるというサプライズに、ファンはもちろん、そうではない大多数の観客も熱狂し、72,000人で埋め尽くされた会場は大合唱に包まれた。
そこからクイーンはMCもほとんど挟まず畳み掛けるように、『RADIO GA GA』『ハマー・トゥ・フォール』『愛という名の欲望』『ウィ・ウィル・ロック・ユー』『伝説のチャンピオン』を次々と演奏。与えられたわずか20分という枠の中で、全身全霊のパフォーマンスを見せた。
実はクイーンは、他のどのミュージシャンよりもこのライヴエイドのステージに賭けていた。
選曲からリハーサルに至るまで一切の妥協をせず、持てる全てを注ぎ込んで臨んだのは、「クイーンはもう過去のバンド」という烙印を払拭するのに最高の舞台だったからだと、フレディ・マーキュリーは語っている。
「僕たちはロックスターとしてまだ脚光を浴びたいと思っているし、これは絶好のチャンスだった。それは正直に言おう。確かにライヴエイドはいいことをしているわけだが、見方を変えれば全世界という観客を相手に中継されるわけだ。それも僕たちの狙いであることは忘れてはいけない」
クイーンはポップカルチャーを創り出すロックバンドであると同時に、ビジネス面でも本人たちに才覚があったのだ。
後日、イギリス中の各メディアがライヴエイドを報道した際、以下のようなフレーズが用いられた。
Queen Steal the Show at Live Aid
(クイーンがライヴエイドで主役の座を奪う)
文/TAP the POP 写真/shutterstock
〈参考文献〉
『クイーン 華麗なる世界』(シンコーミュージック・エンタテイメント )
『クイーン 果てしなき伝説』(ジャッキー・ガン&ジム・ジェンキンズ著/東郷かおる子訳/扶桑社)
『フレディ・マーキュリー 孤独な道化』(レスリー・アン・ジョーンズ著/岩木貴子訳/ヤマハミュージックメディア)