鵺のような政権
2021年12月12日、日曜日の首相公邸。上座についた首相の岸田文雄を秘書官たちが囲んだ。岸田はこの年の10月4日に首相に就任。初めて臨む衆院予算委員会を翌日に控えていた。焦点は、「10万円給付」だった。
子育て世帯を支援するため、児童手当の所得制限を超えた世帯をのぞき、18歳以下の子ども1人あたり10万円を給付する。過去最大の35兆円超に積み上がった補正予算などを使って、岸田政権が最初にぶち上げた現金給付策だ。
だが、新政権の「実績」を急ぐあまり、政策の意義も、制度設計もあいまいで、混乱の種になっていた。
年内に現金5万円を支給し、残り5万円分は翌年にクーポンとして渡す当初の案だと、事務作業にかかる費用が約1200億円に上ることが判明。地方自治体から「ニーズに合っていない」との批判も相次いだ。
12月8日、岸田は衆院代表質問への答弁で「全額現金給付」を容認した。それでも批判は収まらず、今度は分割給付に矛先が向いた。一問一答形式の予算委で岸田が集中砲火を浴びるのは目に見えていた。
混乱の最中の10日ごろ、財務省から岸田のもとに報告が入った。
自治体が年内に10万円を一括給付しても、後から国が5万円を補塡できる。岸田は言った。
「できるんだったらやればいいじゃん。自治体に迷惑かけるのはよくないしな」
そして12日。公邸では、自治体が現金一括給付をする際の条件が話し合われた。用意された資料には細かな条件が書き連ねられていた。
秘書官の一人がこぼした。
「これ、わかりにくいですね」
岸田は言った。
「そうだな。10万、年内、現金、一括、条件なし、でいこう」
政権の目玉政策は、あっさりとその姿を変えた。