#1

「日本の社会の中で一番権限が大きい人なので(総理大臣を)目指した」

「安倍さんはひどかったが、岸田さんはもっとひどい」

取材をすると幾人もの識者からこんな言葉が出てくる。その感覚に半分納得する一方で違和感も覚えた。ならば安倍氏はマシだったのか。選挙演説中の銃撃という非業の死を遂げたこともあり、安倍氏の行ってきた政治に対しての評価がオブラートに包まれてしまいそうな気がした。

例えば、大平正芳や宮沢喜一らの時代を知る年配の人になればなるほど、岸田氏がハト派の宏池会であることにかすかな希望を見ていた。安倍氏の強権路線を「軽武装 経済重視」のソフト路線に転換してくれるのではないかと期待していた。だが、財源も中身も不透明なまま、米国に促されるように防衛費倍増を決めるなどの裏切りに、「岸田さんはもっとひどい」に変わったという。

「安倍さんはひどかったが、岸田さんはもっとひどい」岸田政権が“安倍氏以上に安倍的”といわれる理由_1
岸田文雄首相(本人Facebookより)
すべての画像を見る

確かに岸田氏は、総理大臣として何をやりたいのか、2年経過してもよくわからない。かつて、「総理になったら最もやりたいこと」を問われ「人事」と答えた。総理になってからも、「どうして総理になろうと思ったのか」と尋ねた子どもに、「日本の社会の中で一番権限が大きい人なので目指した」と答えている。「国家観がない」「総理大臣がゴール」と言われる所以だ。

岸田氏本人は「俺は安倍さんもやれなかったことをやったんだ」と自負していると報じられた。安倍氏の元側近は「岸田さんは安倍さんの〝やり残し〟を自分の手柄にしている」とこぼす。

本書で書いてきたように、日本の政治も経済も社会もダメにした元凶はやはり安倍氏だ。岸田氏はその延長線上にいるに過ぎない。しかし岸田氏は、安倍路線を確固たる信念を持って踏襲しているわけではないから、何事にも躊躇がない。逡巡がない。目の前の課題を淡々とこなす優等生の姿にも見える。だから怖い。

やっていることは「ミニ安倍政治」。現実に起きていることは「安倍政治の巨大化」。路線を敷いた安倍氏とそれを形にする岸田氏と、どちらがひどいのだろうか―。